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 暑くて目が覚めた。  背中にうっすら汗をかいている。枕もとのエアコンのリモコンを手に取る。タイマー設定していたから電源は切れていた。  起き上がり部屋を見回し、一瞬とまどう。寝ぼけてるな。もうここに来て三日目になるのに。都心のマンションの自分の部屋ではなく、湘南の友達の別荘の部屋。部屋は広くてカーテンを開けると海が見える。  ——ああ、そうか。  懐かしい夢をどうして今になってみたのか分かった。そういえば私は高校生の頃、海辺の街に住んでいた。そして高校生の時、初めて付き合った彼に振られた時もこんな夏の日だった。  ——青春だったな。    大学を卒業してから就職し、二年働いた会社を先月末に辞めた。仕事がつまらなかったし、同じ職場の女性社員の付き合いが面倒だった。毎日のランチ。毎月月末の女子会。話すことは合コンとか男の品定めの仕方とか。ある日パスタを食べながらふと、こんな生活が何年も続くと思ったら、うんざりして辞表を書いていた。  そして会社を辞めた後は、海に行こうと思った。しばらく海を見てぼんやり暮らそうと。大学時代のサークル友達、ユイの親の別荘が湘南にあるのを思い出した。サークル仲間数人で泊って遊んだっけ。ユイに電話をしてみたら、快く家の鍵を貸してくれた。お盆休みにはユイと彼氏が一緒にくるっていうから、それまで私一人でぼうっとしよう。  七月末で退職して、八月一日には、砂浜に立っていた。  汗でTシャツの背中が濡れて気持ち悪いし、荷物は肩にくいこんで重かったけれど、気分は最高だった。そのまますぐに荷物を放り出して海に飛び込みたかったけれど、実際そうすればよかったんだけれど、会社に入って常識がしみついちゃったのかな、ぐっと我慢して、先に別荘に行って、家中の窓あけて空気入れ換えて、二階の私が寝泊まりする部屋に荷物を持っていってクーラーつけて大きなベッドに大の字になって寝ころんだ。  ——暑っつい  窓から差し込む太陽の光が強烈に強い。でも気分がよかった。  蝉の鳴き声がうるさいほど聞こえる。  一階のリビングダイニングにウッドデッキがあったのを思い出した。その先の庭に木が数本あった。そこの木でミンミン蝉が鳴いてる。
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