🥀赤い薔薇は我君の為に咲く🥀

EP.1：恋愛事情

「ジェシカ。お前は母と父がいない。身内が祖父母だけと知ればその辺の男はお前を無理矢理にでも従わせようとするかもしれない、男であってもお前では力がない。私達育ての親がいなくなった後に苦労するのはお前にも父と母にも申し訳がないんだ。だから……信頼ある人間にお前を託す事にした、相談もなく決めてしまったのは悪いと思うがこれもお前の将来の為を思っての──」
「私に選択権を与えない、国でさえ私を男として認めない。その事はもういい諦めている。こんな容姿で嫌というほど苦労した。けれど、将来さえ私に選択の自由が無いのはあまりにも酷い！　私だって自由に相手を選びたい！」
　祖父母にそう言い寄っていると、小さな笑い声が聞こえドアが開いた。そこへ入ってきた男は……。
「やあ、ジェシカ。君の声は相変わらず小鳥が囀る春の森に似て綺麗だな？　思わず聞き惚れて目的を忘れそうだった」
　背が高く凛とした芯のある深みある声と整った顔立ちに浮かぶ穏やかな微笑み、真っ直ぐで美しい黒い瞳に思わずドキッとする。鼓動が速くなる……。
「アレックス、どうしてここに……君は今は……」
「そうだな。高校の時親の都合で俺はジェシカを置いてフランスへ行かなければならなかった。伝える間もなく、連絡も取れず本当にすまなかったな。あの頃俺は君に想いを伝えられないままでいた、俺は君との約束を果たしに来たんだ」