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「おまえはそれでいいのかよ」  正面から大きな声がした。その声が薄れゆく私の意識をつないだ。しかし、身体はそのまま落ちていく。 「ミヤあああ! 早くこい! 映画始まっちまうぞ!」  その声で私の足に力が入った。落ちそうになる身体を立てなおす。正面を向くと、横断歩道の向こうにアキラが立っていた。 「え? どうして、アキラがいるの?」  横断歩道の向こうのアキラは叫ぶ。 「ずっといたよ。おまえがこの道を通ろうと勇気を出したときに、声をかけられるように」  口の悪い幼馴染はブツクサ文句を言ってばかりいたが、私が遠まわりして登校することを決めた次の日から、毎日、始業時間にまにあうギリギリまでこの場所で私を待っていたようだ。 「おまえは頑固だからな。おれが迎えに行ったとしても、言うことなんて聞きやしないだろ。あの映画のときだって、映画館で待ちあわせをしたいって言って聞かなかったくらいだからな」  そんな頑固な女を毎日、この男はこの場所で待っていたと言うのか。あきれた。だけど、今の私にはそんなアキラの存在がありがたかった。アキラは青信号をわたってこちらにくることはせずに、向こう岸で待っている。そうだ。これは私が自分の足で乗りこえなければいけない試練なのだ。 「よし」  震える足を一歩出す。耳の奥でクラクションの音が響く。目のまえにヘッドライトの幻覚が見える。  怖い。でも…… 「こんなのうそ! これは現実じゃない!」  目をつぶって私は叫んだ。そして目を開く。目のまえには平和な九月の朝の日常が広がっていた。青信号を向こう岸に向かって歩いていく。私が向こう岸にたどりつくと同時に青信号が点滅を始める。
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