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「やればできるじゃないか」
やさしい声でアキラが言う。私はうしろを振り返る。なんてことない。たった数メートルの縞々模様があるだけだった。もうこの道を振り返る必要はなかった。
「さあ、学校にいこうか。遅刻しないように」
私はアキラの横にならぶと、三年一組の教室に向かった。そして、それから七ヶ月後。看護学校の試験に合格した私は、入学式が始まるまえの春休みの晴れた日の昼すぎに家を出た。
目的地は交差点の先にあるショッピングモールの映画館。待ちあわせ場所に向かうためだ。
「まったく……」
暑がりのアキラはニットの袖まくりをしてショッピングモールのベンチのまえに立っている。あいもかわらず、ブツクサ文句を言うのが趣味だ。私の合格祝いを遅ればせながらしてくれるのはいいが、それならせめて機嫌よくしていて欲しいものである。
「本当に頑固だな。となりの家に住んでるんだから、一緒にくればいいじゃねーか」
私は言った。
「いいの。現地で待ちあわせた方がデートって感じがするでしょ」
そう言ってアキラの腕に腕を絡める。幼馴染から恋人に呼び名が変わった男は、私のわがままにあきれているようすだった。
「まあ、いいや。それより、早くしないとコナン始まっちまうぞ」
一年ごしのもうひとつの夢が叶った。
「ねえ、アキラ」
私は言った。
「お待たせ」
今、私たちの未来は明るい。
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