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「べつに、そんなんじゃねーよ。でも、看護師になりたいって言ってたやつが病院のベッドで患者になってるのが似あわねーって思っただけ」  あ、そうだ。私、高校三年生になったら受験勉強を頑張って、子どものころからの夢だった看護師になるために看護学校に進学しようと思ってたんだ。それなのに、長いあいだ意識不明で入院していたなんて。 「って、今、何月何日?」 「あー、もううるせーな。四月二十九日だよ」  まずい! もう一ヶ月もすぎてるんだ。っていうか、四月二十九日っていうことはゴールデンウイーク? げっ!  「塾の講習!」 「そんなのとっくに始まってるっつーの」 「だって、ママに振込してもらったのに、私行ってない」 「そんなのいいのよ。あなたが無事なら」  ママの言葉をアキラが継いだ。 「それにテキストなら、おれが代わりにおまえのぶんも受け取っておいてやったよ。ほら」  そう言って塾のテキストをどさっと私のうえにおく。 「目が覚めたばかりで、そんなに焦ることもないんだから、受験勉強は退院してからゆっくり始めなさい」  ママはやさしく言ってくれるが、そんなわけにはいかない。だって、私は昔から看護師になるのが夢だったのだ。母子家庭の私の家の場合、塾の講習に通わせてもらえること自体が奇跡なのだ。いくら夢のためとはいえ、浪人という選択肢がとれないことは私にだってわかる。だから、かならず現役で合格しなくてはいけない。 「まあ、あまり無理はするなよ。おれも帰って受験勉強しないと」  そう言ってアキラは病室を出ていった。そのあとは、ママとお医者さんが話をして、私の今後についての方針が決まった。  翌日に再度精密検査をして、そこで問題がなければ退院できるらしい。もっとも検査結果が出るには三日程度の時間が必要らしいが。 「そういうわけだから、まだしばらくは安静にしてるのよ」  そう言ってママはお医者さんと一緒に病室をあとにした。入れ替わりで若い女性の看護師さんが部屋にきた。 「体温を測りますね」  その声が温かかった。
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