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「うーん、どうしたものかな」
ラボのまえでおれは頭を悩ませた。入口の門は警備員が手動で開けるシステムだし、ラボのなかは厳重にセキュリティが敷かれている。カードキーがないとほとんどの場所には立ち入れない。部外者であるおれにはこれ以上できることがないように思えた。
だが、おれには秘策があった。悩んでいたのは、たったひとつの切り札をさっそく使わなければいけないことに対してだ。これを出したら、おれにはもう武器がない。しかし、出し惜しみしていては真実に辿りつけそうもなかった。堂々と道のまんなかを歩いてゲートに向かう。門のまえに立つ警備員が「誰だこいつ」っていう目でおれを見た。
「私はこういうものです」
そう言って名刺を一枚差し出す。フリージャーナリストという肩書が書いてあるだけの簡素な名刺だ。
「なんのご用でしょうか?」
その丁寧な言葉にはどこか高圧的な語気が含まれていた。
「こういったご用です」
おれはスマートフォンから動画を流した。最初のゾンビが大臣の車で護送されている独自映像だ。
「それがなにか?」
その言葉を聞いてもなお状況を理解しないということは、この警備員はなにも知らないということなのだ。まいったな。これじゃあ、本格的に手詰まりだ。次の手が浮かばずに困っていると、うしろからクラクションを鳴らされた。
「おい! そんなところでなにをしている」
黒塗りの車の運転手が叫んだ。おれはその車のナンバープレートに希望を見た。大曽十の送迎車だった。
「あの、こちらなのですが」
そう言っておれは車に向けてスマートフォンを見せた。車の後部座席が開く。
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