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 最初の発症者が発見されたのは、この国の港町横浜だった。今から半年まえの金曜日、夜に港の警備をしていた警備員が、埠頭近くでうめき声を聞いたのが始まりだ。  警備員は最初、酔っ払いかなにかだと思ったらしい。だって、そうだろう。週末の埠頭で裸に近い状態の男が倒れてうめき声をあげていたら、そんなものは十中八九酔っ払いだ。残りの一、二は下手をこいてヤクザにぶん殴られた善良な一般市民ってところだろう。しかし、今回のケースはそのどちらでもなかったという。  警備員が近づいた瞬間、その男は真っ赤に充血した目を見開き、その警備員の首すじに噛みついた。警備員はすぐに男を振り払った。しかし、首の傷は存外に深く、彼はそのまま病院で治療をすることになった。  それがまずかった。彼に噛みついたのは、まぎれもないゾンビウイルスの感染者だったのだ。もちろん、当時はゾンビの存在なんてゲームのなかのフィクションかマイケル・ジャクソンのミュージックビデオかってくらいの認識しかなかった。それくらいにぶっ飛んでる。  だが、ゾンビは確実に存在した。そして、病院で集団感染が起こった。夜間勤務をしていた医者七名と八名の看護師、そしてその病院に入院していた四百八十三名がひと晩でゾンビ化した。  ゾンビは街を徘徊し、さらに被害を拡大させた。翌日には、政府から緊急事態が告げられ、不要不急の外出を禁じられ、国民は詳しい状況もわからないままにそれに従うことになった。  なんで、おれがそんなに詳しく状況を知っているかって?  そんなの簡単だ。この惨状が起こった病院に一番に到着したのが、記者であるおれだったのだ。
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