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 まあ、事件発覚当日はそんなふうにパニックだったわけだが、その後の政府の対応は疾風迅雷。チョッパヤだった。まずは病院を中心に街を隔離して立入禁止区域に指定。周囲に住んでいる人間に対して避難を呼びかけ、市区町村が無料で血液検査を実施。ゾンビウイルスに感染している人間とそうでない人間をわけ、感染している人間は『治療』と称して立入禁止区域へ護送、感染していない人間に対してはゾンビウイルスに抗体を持つワクチンを半強制的に接種させた。  それが功を奏してか、立入禁止区域の外の人間が集団でゾンビ化することは抑えられた。  この迅速な判断は世界中から称賛され、内閣の支持率もひと晩で三十ポイント近くも上昇した。  テレビは連日、その日の被害者の数字を告げ、ゾンビウイルスに感染しないための予防方法なんていうのを耳にタコができるまで叫び続けた。『外出時には防護服を着ること』『他人との接触を避けること』なんていう、なんともまあ、あたりまえのことだった。  しかし、ファンタジー味の強い未曾有の危機に対してとれる策はその程度しかないということも理解できた。シンプルだからこそ、人々は従う。そして、そのおかげで被害の拡大が最小限に抑えられているというデータを毎日見せられれば、それを盲信せざるを得ない。防護服も着ずに少女にロリポップをプレゼントしようとする二十代後半の男を母親がゴミを見る目同然で見てくるのも仕方のないことだった。  だが、おれはこの現状に疑問をいだいていた。半年まえ、どのメディアよりも先んじて病院に駆けつけたとき、警備員に噛みついた『最初のゾンビ』の姿を目撃したからだ。  裸に近い状態の男が、防護服に身をつつんだ男二人にかかえられて黒塗りの車に押しこめられ、病院から出て行った。最初、どこかに隔離でもするのかと思っていたが、その考えは車のナンバープレートを見て変わった。
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