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6
「乗りたまえ」
大曽十が降りずにそう言った。おれは車に乗りこみ、大曽十と一緒にゲートをくぐってラボに入った。
「さあ、話をしようか」
会議室の椅子に腰かけた大曽十が口を開いた。まだ日は高いのに全部の窓のブラインドが閉まっている。十五平米程度の室内には、おれと大曽十が長机をふたつ挟んで向かいあっている形だ。
静寂が耳にうるさかった。大曽十は据え置きのテレビをつけた。ニュース番組ではあいかわらず「本日の被害者」を感情豊かな数字で示していた。
「この数字がなにかわかるか?」
大曽十がたずねる。そんなもの、今日、ゾンビ化してしまった人間の数に決まっている。おれはそのままの意味を伝えた。
「はははっ。その程度の認識なら、早々にお引き取り願おう」
明らかにバカにしている。
「さあ、私は忙しいんだ。きみの相手などしてられない。この未曾有の危機に対して新たな策を練らねばならないからね」
そう言って立ちあがり、ドアを開ける。さっさと帰れと言っているのだ。
「促進剤」
おれは、半分でまかせで言葉を発した。大曽十の眉がぴくりと跳ねた。これはおれがこの半年間、さんざん考えて出した仮説だった。
なぜ、政府はこんなに早く未曾有の危機に対して効果的な策をとることができたのか。そもそもパンデミックが起こった病院は立入禁止区域に指定されすぐに閉鎖されたはずだ。それなのに、どうして連日、ゾンビが増えているのか。その答えはひとつしかなかった。
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