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「そのワクチンはゾンビ化を抑えるための抗体なんかじゃない。おれは今まで一度もワクチンを打っていない。それどころか、防護服だってまともに着ないで外出している。さっきはパチンコにだって行ってきた。もっともまわりのやつらや店員に嫌な顔をされて最終的には追い出されちまったけどな」  おれの目のまえで大曽十の顔が一瞬だけ驚きに変わった。そして、すぐに平常時の顔に戻る。 「そんなおれがこうしてピンピンしてる。だが、その一方で、毎月律儀にワクチンを接種しているやつらがゾンビ化している。その事実から考えられることは、そのワクチンは……」 「あはははは!」  言葉の途中で大曽十が笑い出した。 「やはりきみはなにもわかっていないようだな」  次に驚くのはおれの番だった。大曽十は子どもを諭すように言う。 「きみはゾンビがどこからきたと思っている? まさか、本当に突然変異の怪異だとでも思っているわけではあるまいな」  どこもなにも、半年まえに埠頭で倒れていたのが最初のゾンビで間違いない。そのままのことを言った。 「いや、違うな。ゾンビ化するリスクは元々我々の遺伝子に組みこまれているのだ。それは世界の人口が八十億人を超えた時点で体内で活性化するようになっている」 「ちょっと待てよ。どういうことだ?」 「人間はこの世界に生かされているにすぎない。だから、我々は世界の人口を一定にたもつために調整する必要があった」  しかし、昨今、世界が平和になってしまったせいで、このバランスが崩れたのだという。 「戦争にはそんな一面もあるということだ。きみたちにはわからないことだろうがね」
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