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「なるほど」  おれは言った。 「ものわかりが良くて助かったよ。さあ、きみも平穏に暮らせるようにワクチンを打ちたまえ。なに、発症率はたったの四十パーセントだ。このまま生きていてもいずれゾンビ化する運命にあるんだ。それならば、ワクチンを打ち、発症しない方に賭けてみてはどうかね。このワクチンは促進剤の側面もあるが、発症しなかった人間にはウイルスによる抗体がつくようにもなっている。運がよければ、ゾンビ化を抑制しつつ世界人口が八十万人をしたまわる」  おれたちは、そんな危険なガチャをやらされていたのか。 「そうだな……」  おれは言った。ポケットからスマートフォンを取り出した。ディスプレイには今おれが見ている景色が表示され、画面の右したには同時接続者の数が示されている。チラと確認すると五桁で左の数字が五というところまでは確認できた。おれはポケットのなかで中国資本のライブアプリを起動させていたのだ。 「た、大変です。抗議の電話が鳴り止みません!」  会議室にラボの職員がなだれこんできた。 「慌てるな! 問題ない! その証拠にテレビはこのことを取りあげていない!」  大曽十が叫ぶ。 「遅いんじゃないかな。さすがにもう隠しきれなそうだぜ」  おれはスマートフォンで動画サイトにアクセスした。今のおれと大曽十の会話が切り抜かれて思う存分転載されている。 「くっ……」  大曽十が苦虫を噛み潰したような顔をした。さすがにこの数の転載は対応しきれないのだろう。 「きゃああああ!」  つきっぱなしのテレビからアナウンサーの叫び声がした。防護服を着たテレビクルーがテレビのなかでゾンビ化して彼女を襲ったのだ。  真実が明るみになったとたん、それをあと押しするように現実が変わってく。今まで澄ましていたテレビ番組は阿鼻叫喚のまま番組を強制終了し、おれと大曽十の会話が拡散された動画サイトは原因不明のサーバー落ちを起こした。  おれの目のまえで大曽十が膝をついた。ラボ内に手のひらを返したテレビ局がなだれこんだのはその日の夜だったという。
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