先輩の暇潰し

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先輩の暇潰し

「お前さ、キスしたことある?」 「あるわけ、無いじゃないですか!手だって繋いだこと無いのに!」 「そ?じゃあ手。出して?ほら。」 「へ?」 「だから、手!」  僕は手のひらを上に向けてちょうだいでもするような仕草をした。 「なんだよ、金でもくれってか?」 「ち、違う。手を出せって言うから…。」  すると僕の手をつかみスルリと指の間に指を滑らせてきた。 「これ、知ってる?」  なんかくすぐったくてこそばゆくてそわそわする。 「恋人繋ぎ。」  そのキーワード聞くだけでもう汗が出てくる。喉がカラカラだ。  これは練習。女の子と手を繋ぐ練習だよ。勘違いするな、自分!  だけどそうやってじっと見てくるその視線に射貫かれそうだ。  きっと女の子たちはこの視線にハートを射貫かれるんだろう。  これで何人のハートを刺してきたんだ。  気まぐれな彼を前にするとドキドキする。その先に何かがあるなんて。もしそんな事になったら僕はもうどうしていいのかわからない。  あたふたしてついに脳が思考停止した。  手を引っこ抜こうとしたらグッとつかまれた。 「逃げんの?」 「え?」 「デート中もそうやって途中で逃げんの?俺が意中の人だったとしてもそうやって逃げんの?」 「別に逃げたんじゃない。」 「だって逃げたそうな顔してる。」 「なんか、喰われそう。」 「取って喰ったりしないよ。お前なんか。」  お前なんか…か。わかってるそんなこと。  先輩は僕を相手にして面白がってるだけ。暇潰しなのはわかってる。  飽きたらそのうち、捨てられる。  するとその手をグイッと引き勢いで僕を胸元に引き寄せてきた。  顔と顔が今にもくっつきそうな距離。 「なにドキドキしてんの?」 「だって急に引っ張るから。」  緊張して喉が乾く。生唾を呑み込む音が煩い。  目の前にこんなに綺麗な顔が迫るんだから緊張しないわけがない。  いくら男同士だって言ったって、これだけの綺麗な顔がすぐそばにあったらやっぱり緊張するでしょ、普通。  だってこれ、そもそも普通じゃないし。  するとその唇が僕の唇にそっと触れた。 「え??な、何するんですか!!」 「練習だよただの練習、只野君。」  鼻に抜けるような声で甘く笑いながらそんなことを言った。  もー、限界。パニックどころじゃない。一瞬気を失いかけた。  顔が暑いし意識が遠退きそうだ。  なんだこれ。  練習だといいながら本番みたいな甘いキス。  これ、ホントに練習? 「ちょっと、やめてください!」 「あれ?やめていいの?なんか物欲しそうに見てたから。勘違いか。」 「物欲しそうになんか見てません!」 「でもしたこと無いんだろ?キス。」 「無いけどさ…。」 「だから練習だよ、練習。」  もー。ドキドキが止まらない。  こんなにも疲れるのか、練習。
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