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わがまま王女の婚約破棄(2)
アネットがジリアンを見上げた。
まるで姉妹のような、同じ明るい金色の巻毛、鮮やかな青の瞳をした2人の少女が見つめ合う。
アネットは濃いピンク色のふわりとしたドレスを身に付けていて、まるで1輪のバラの花のようだった。
ちょっと不満そうに目を細め、キュッと唇を結んだその表情は、時に『わがまま王女』と宮廷貴族達に揶揄される姿そのものだったが、子供の頃から一緒に過ごしてきたジリアンが見ても愛らしい。
ジリアンが首の後ろでまとめた明るい金色の巻毛を揺らし、大きな明るい青の瞳を潤ませて、かすかに唇を震わせながらアネットを見つめると、アネットは一瞬、困ったように眉を下げた。
「殿下、ウィリアムは……!」
ジリアンはそう話しかけて、声が震えてしまっていた。
深呼吸をして、改めて話し始める。
「殿下、殿下はとても思慮深いお方です。決して、噂で言われているような、『わがまま』王女などではないことは、幼い頃からご一緒している私は存じております。思いつきでーー婚約破棄をされたのではないはず」
ジリアンは、アネットを見つめた。
「しかし! 今はいったん、ウィリアムと2人で、お2人で話されるべきではーーこんな形で婚約破棄をする理由はありません!」
アネットは無言だった。
しかし、ようやく我に返った大臣達が、騒ぎ始めた。
「ジリアン殿! 王女殿下に意見するとは、何事ですか!?」
「王女殿下の護衛に過ぎないあなたが言っていいことではない!」
自分を非難する人々に、ジリアンは正面から向き合って、ぴしゃりと言い返した。
「臣下の想いに耳を傾けることなく、人の上に立てますでしょうか!?」
睨み合うジリアンと大臣達の会話を遮るように、アネットが静かに口を開いた。
「いいのよ、ジリアン。あなたの言うことはわかるわ。臣下の意見は、これからも耳を傾けるつもり。でも、わたくしはもう決めたの。もちろん、何度も考えた結果よ」
ジリアンの目から涙がこぼれ落ちそうになった瞬間、横からウィリアムがジリアンの腕を引いた。
「もういい、ジル。さあ行こう」
「しかし、ウィル!」
ウィリアムは無言で、ジリアンの腕を掴んだまま、テーブルから離れた。
「ジリアン、もうわたくしの影武者になる必要はないわ」
ジリアンの背後から、アネットの不機嫌そうな声が届いた。
「殿下……!?」
「だからもう、わたくしに構わないでちょうだい」
ジリアンがウィリアムの腕を振り解いて、振り返った。
気が昂って、幼かった頃のように叫んだ。
「アネット! ウィリアムの気持ちはどうなるんだ! なんてひどいことを」
「ジリアン殿! 王女殿下に対して不敬ですぞ!」
ばーん、とテーブルを叩き、我慢しきれなくなった財務大臣が叫ぶと、晩餐会のテーブルは大混乱になった。
ウィリアム・ディーンは今度こそジリアンの腕をしっかりと掴むと、一礼して、彼女を連れてバンケットホールを退出した。
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