わがまま王女の秘密の計画(回想)

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わがまま王女の秘密の計画(回想)

 舞踏会で、ウィリアムと踊りながら、アネットは楽しそうに秘密の計画を話していた。  しかし、アネットはふと悲しげな表情になると、目を伏せ、「ごめんなさい」と謝った。 「アネット、なぜ謝る?」  ウィリアムはアネットの手を引き寄せると、王女を優雅にくるりと回転させた。 「ジルをあなたから取り上げておいて、今度はあなたの名前を汚してしまうわ。『わがまま王女に婚約破棄された公爵令息』なんて、不名誉な称号を与えてしまう」  アネットがウィリアムから離れ、2人は手をつないだまま、見つめ合った。 「でも、このままあなたと結婚したら、あなたも、ジルも、ジークも、みんなを不幸にしてしまう」  それは、婚約破棄騒動が起こった晩餐会より半年ほど前のこと。  アネットとウィリアムはとある舞踏会に出席していた。  優雅な音楽の調べに乗って踊る、若く美しい王女とその婚約者のダンスに魅了されて、会場の人々はほうっ、とため息をついた。  ウィリアムは視線でジリアンの姿を探した。  長い金色の巻毛をきゅっと背中で結び、チュニックにブーツ、さりげなくマントを羽織っているが、その下に帯剣しているのをウィリアムは知っている。  ジリアンはまっすぐな性格だ。  厳しい訓練を積んで、本気でアネットを守る覚悟で、彼女と行動を共にしている。  生真面目な顔をして壁際に控えているが、整った容姿をした男装姿の彼女に、周囲の令嬢達がチラチラと熱い視線を注いでいるのを、ジリアン本人は気づいているのだろうか?  おまけになんだあの、ちょっとピンクに染まった可愛らしい頬。  周囲の令嬢達に圧倒されているのか、会場が暑いのか。  口下手でまっすぐな気性のジリアンが、彼女達に話しかけたりはしないのをわかっているのに、ウィリアムは不機嫌になった。  そんなウィリアムの様子を、一緒にダンスを踊っているアネットが面白そうに眺めていた。 「アネット、あなたはいつまで影武者が必要なんだ?」 「結婚するまでよ。夫ができたら、夫にわたくしを守らせるわ」 「ジークフリートは顔はいいが、剣の腕はもっといい。頭の出来は保証できないが、腹黒い奴だから、宮廷内の駆け引きならお手の物だろう」 「そうよ。そこはあなたとよく似ているわね。でも、あなたと違って、わたくし一筋の可愛い王子様なのよ。しかもジークは第2王子。……ねえ、わたくしのために、おムコに来てくれると思う?」  急に乙女の表情になったアネットに、ウィリアムは無表情のまま、片方の眉を上げる。 「まあ、頑張ってみろ。アネット、ジリアンは私が貰い受けよう」  アネットは可愛らしく微笑んだ。  しかし出てくる言葉は甘さのかけらもない。 「まるでモノ扱いね。そんな態度でジルがイエス、と言うかしらね?」  アネットはまた、くるりと優雅に回った。 「ジルは手強いわよ。いつも他人のことばかり考えているんだから。お手並み拝見といきましょう」 「そっちこそ。ジークフリートに振られたら、目も当てられない。言っておくが、返品は受け付けないぞ」  まあ、失礼ね、とアネットは頬を膨らませた。  もちろん、会場の人々は、仲睦まじそうに踊る2人の間にこんなやりとりがあったことなど知らない。  音楽が終わり、互いに一礼すると、周囲から2人のダンスを賞賛する拍手が沸き起こった。
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