公爵令息と愛しの騎士

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公爵令息と愛しの騎士

「ウィリアム様、ジリアン様、通りすがりの者ですが、失礼いたします。なんとじれったい……いえ。僭越ではございますが、一言よろしいですか!? ウィリアム様、どうぞこちらの花束をお使いくださいませ。麗しの王妃様からいただいたお花でございますが、構いませんわ。王妃様もこの話を知ったら、きっと賛成してくださるでしょう」  栗色の髪を上品に結った、黒のドレスの貴婦人。  シンプソン夫人が、両手で大きなバラの花束を差し出していた。 「ウィリアム様、そもそもジリアン様にお気持ちが伝わっておりませんわよ!? 結婚の申し込みの前に、まず、一番大切なことをお伝えしませんと……!!」 「あ」 「わかりまして? わかりましたわよね!? そこでございますわ。そこが大事なところなのでございます。……では、失礼いたします」  貴婦人はグッとウィリアムに近づいた。  同時に、大きなバラの花束も、グッと近づくので、ウィリアムは反射的に花束を受け取った。 「あ、ご安心ください。プライバシーが必要ですね? メイド達は全員、わたくしが連れて行きますので」  シンプルだが上質な黒のドレスを着こなし、すっと背筋が伸びたシンプソン夫人は、そう言うと、ウィリアムとジリアンを遠巻きにしながら、頬を染めてきゃーきゃー盛り上がっているメイド達に向かって静かにうなづいた。 「さあ、皆さん、参りますよ。お2人のお邪魔をしてはなりません」  シンプソン夫人がそう言うと、メイド達がそそそ…と夫人に従う。  全員でウィリアムとジリアンに一礼して、立ち去っていった。 「ウィル、あのご婦人は、知っている方か?」  ぽかんとしていたジリアンが気を取り直して尋ねると、ウィリアムも首を傾げた。 「うむ……? どこかで見かけた気はするが……」  そう言うと、ウィリアムはようやく、リラックスした笑みを浮かべた。 「ジリアン」 「うわぁ!!」  ウィリアムが差し出した、王妃様のバラの花束が、ずいっとジリアンの前に突き出され、ジリアンも反射的に大きな花束を抱え込んだ。  間髪を入れず、ウィリアムはジリアンに近づき、彼女の頬をそっと両手で挟んだ。  ジリアンの明るい青の瞳を、まるで覗き込むようにして、見つめて言った。 「好きだ」  ジリアンの肩がぴくん、と跳ねる。 「お前のことがずっと好きで、お前と結婚したいと思っていた。今も思っている。ようやくお前に、そう言える立場になれた」 「お前がドレスを着ようが、騎士服を着ようが、そんなことは構わない。ただ、いつもお前の一番そばにいたい。いつもお前を一番近くで見守る許可を、私にくれ」 「ウィ、ウィリアム」 「好きだ」  ウィリアムは真剣な表情で、言葉を重ねる。 「ジリアン、お前は、私のことが嫌いか……?」 「ーーまさか!」 「それは、『好き』か?」 「う……」  ウィリアムの言葉に、ジリアンは気がついたらうなづいていた。  ジリアンは、真っ赤な顔になって、バラの花束の上に顔を伏せてしまった。  そして。 「……ジル、結婚してください」  急に自信なげな様子になったウィリアムに、ジリアンはどん、と抱きついた。  まるで、2人がまだ幼い子どもだった時のように。 「私は……私は……」  ジリアンは、もうだめだ、と観念した。  私も好きだ。ずっとーー思っていた、この『好き』は。  ジリアンは恐る恐るウィリアムの顔を見上げた。  そんなジリアンに微笑みかけると、ウィリアムは、花束ごとジリアンを抱きしめた。 「それは、『イエス』か?」  ウィリアムは何がなんでも、ここだけは、ジリアンに言わせたかった。  ジリアンは真っ赤になった顔で、目を左右にさまよわせる。  ここは譲れない。  そんなウィリアム・ディーンの意志をジリアンは感じた。 「ジリアン、影武者令嬢は卒業だ。これからは、騎士姿でも、ドレス姿でも構わない。だが、私の隣にいると約束してくれないだろうか?」 「…………………………はい」  ウィリアムは安堵のため息をついた。  そして、ようやく、愛しい少女に、初めてのキスをしたのだった。  * * *  それからしばらくして、ローデール王国の第1王女アネットと隣国の第2王子ジークフリートの婚約が発表された。  時を同じくして、王都では、なぜか貴族の令息と麗しい騎士との恋愛小説が発売され、男装して大きなバラの花束を受け取って、プロポーズ(?)を受けるのが、令嬢達の間で大流行になったのだった。  ベストセラーになった書名は、『影武者令息と公爵令息の秘密の恋〜わがまま王女に婚約破棄されて〜』。  作者はシンプソン男爵夫人。黒のドレス姿がトレードマークの、有名な宮廷恋愛小説家だった。 ☆☆☆ HAPPY♡END ☆☆☆ お読みいただき、ありがとうございました♡
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