公爵令息と男装の騎士

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公爵令息と男装の騎士

「きゃあ! ウィリアム様っ!」 「ジリアン様〜っ! 素敵ですわっ……」  王宮の磨き抜かれた回廊を、2人の若者が颯爽(さっそう)と歩いてくる。  背が高い方は、艶やかな黒髪。印象的な黒い瞳に、純白の礼装が眩しい。  手入れの行き届いた髪と肌。落ち着いた表情に、品のあるしぐさで、すぐに高位貴族の令息と知れた。  小柄な方は、明るい金色の長い巻毛を首の後ろで束ね、大きな青の瞳をしている。  愛らしい顔だちだが、姿勢よく、膝丈のチュニックにマントを重ね、腰に剣を差した騎士姿だ。  黒髪の貴族令息が小柄な騎士にかがみ込むようにして、体を寄せながら歩いてくるのだが、それがまるで、騎士を守ろうとしているかのようにも見えて。  2人の姿がキラキラして見えるのは、鏡のように磨き抜かれた白と金の回廊だけのせいではないはずだ。  きゃー! と抑えながらも抑えきれない、女性達の悲鳴が辺りに響いた。 「まあ! ウィリアム・ディーン様とジリアン様よ」 「いつ見ても素敵なお2人……キラキラと輝いているわ……」  黒のドレスに、白のエプロン。  揃いのお仕着せを着た、王宮勤めの若いメイド達が熱い視線を注いでいるのは、もちろん、目の前を通り過ぎる、黒髪と金髪の2人だった。   黒髪で背が高いウィリアム・ディーン。  金髪巻毛で小柄なジリアン。  2人とも、年頃は同じくらい。  共に育った幼なじみの気安さがどこか滲み出ている。 「アネット王女殿下のお部屋へ行かれるのかしら」 「そうね、ウィリアム様は、王女殿下の婚約者ですもの」  そそそ……と集団で廊下の端に寄って、2人に道を譲りつつも、視線は外さず、賑やかに話す声は止まらない。 「王女殿下が羨ましいわ。両手に花、ならぬ2人の美しい殿方を抱えてーーうふふふふふ、ぐふ」 「ちょっと、貴女、その笑いはさすがに少々不気味でしてよ。ジリアン様が女性なのはもちろんーー」 「もちろん、知っていますわ。有名ですもの。将軍閣下の1人娘。男装騎士として、王女殿下の護衛を務める……」  自分の名前が聞こえたのか、メイド達を追い越しながら、ジリアンが眉をひそめて、ちらりと視線を投げたらしい。  ここで再び、きゃー! という女性達の悲鳴が入った。 「あぁん、ジリアン様は、本物の殿方以上に麗しいわ……!」 「本当に素敵。あぁ、わたくしも守っていただきたいわ……」 「うふふ。まさに男装の麗人ですわね。王女殿下は、ジリアン様を離しませんのよ? ジリアン様がおそばを離れると、まあ、ご機嫌斜めになられるとか」 「王女殿下は、ご気性がはっきりした方ですもの」 「物言いもはっきりされているわ。だから『わがまま王女』なんて言われるのね。でもっ! それくらいでいいのよ! 将来は、女王になられるかもしれないのだから……」  大盛り上がりの女性達。  彼女らの前を、ウィリアム・ディーンとジリアンが並んで足早に通り過ぎていく。 「また、お前の噂をしているぞ、ジル」 「私ではない。ウィル、お前のことだろう」  ジリアンはそっけない。  メイド達のことは、一瞬にして、彼女の中で、なかったことになったようだ。  可愛らしい顔をにこりともさせず、生真面目に前を向いて、ウィリアムに遅れまいと歩調を合わせている。  ……そんな2人の様子を、回廊の端にそっと立ってさりげなく観察している、1人の貴婦人がいた。
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