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わがまま王女と影武者令嬢(1)
「こんなものかしらね。ジリアン、あなたもよく似合っているわよ」
色白の、小さな顔。
顔の周りで金色の巻毛がふわふわと揺れている、綺麗に見開かれた瞳は、海のような青だった。
ローデール王国のアネット王女の部屋では、ほぼ同じ背格好に、同じ色の髪、同じ色の瞳をした2人の少女が、まるで合わせ鏡のようにして向き合っていた。
ゆるやかに巻いた髪は肩から背中に自然に広がり、額の上には、花冠を模した、華奢な金色のティアラが載せられていた。
身に着けているのは、純白のドレス。
ーー明日の結婚式で着る、ウエディングドレスだった。
「え? よく似合って……? ぐふぉっ……げほげほげほ!」
突然、奇妙な音で咳き込むと、2人の少女のうち、やや背が高く、ほっそりとした少女が、体を折った。
それを見て、若干背が低く、ふっくらとした頬の少女が、片方の眉をひゅい、と上げる。
「ジリアンったら。さすがのわたくしも、そんな音を出して咳き込んだりはしないわよ? 全くもう。心配しないでも大丈夫よ、結婚式のリハーサルなんてすぐ終わるから。それに、式を行う大聖堂までの馬車では、わたくしのフリをしてもらうけど、大聖堂に着くまでのことよ。着いたら、騎士姿に戻っていいんだから。ちょっとの辛抱じゃない」
「……げほ?」
主君である王女殿下に励まされて、ジリアンは慌てて顔を上げる。
ジリアンは、先ほどまでの騎士姿から一転、髪は下ろし、アネットと同じ純白のウエディングドレスに身を包んでいた。
「う……。王女殿下、お気遣いさせてしまい、申し訳ございません。大丈夫です。ドレスが似合う、というところで、驚愕してしまいまして」
ジリアンの言葉に、アネットは優しく微笑した。
そっとジリアンの手を取って、2人で猫脚のカウチに腰を下ろす。
「まぁ。わたくし、嘘は言っていませんけどね? さて。心配しないで。もうすぐウィルが迎えに来るわ。ほら、鏡を見て。わたくし達、そっくりに見えるわ。誰もあなたが本物のアネットではなくて、影武者だなんて、気づかないわよ」
ジリアンが顔を上げると、大きな鏡に、同じカウチに座っている2人の少女が映っていた。
アネットが困ったような顔をして、ジリアンを見つめる。
「大体、わたくしの影武者なんて、小さい頃から数えきれないほどやってくれているじゃないの。どうして、今回はそうナーバスになっているのよ?」
そう言われて、ジリアンは反省した。
ローデール王国の国王夫妻に生まれたただ1人の子ども。
それが女の子で、アネットが女王になるのをよしとしない人々が、何度もアネットの暗殺を企てたのだ。
ジリアンは、アネットの影武者役を務めることが決まった時に、父からそのことははっきりと知らされていた。
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