わがまま王女の婚約破棄(1)

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わがまま王女の婚約破棄(1)

(明日、麗しのアネット王女殿下は、結婚式を挙げられる)  それが、幼い頃から見守り続けたジリアンの、感慨深い想いだった。  結婚式前夜の今、王女殿下と婚約者の公爵令息であるウィリアム・ディーン、そして2人の両親と大臣達は、挙式リハーサルに臨み、その後に続く晩餐会の真っ最中だった。  長い長いテーブルに、主役の2人を挟んで、招待客達がずらりと並ぶ。  騎士姿のジリアンは、さりげなく壁の前に立って、バンケットホールの様子を見守っている。 (アネット殿下のお相手は、麗しの公爵令息であり、殿下と私の幼なじみであり、そして私の……)  ジリアンは、幸せそうに微笑むアネットから、向かいに座るウィリアムへと視線を動かす。 (ん? いや違う。落ち着け落ち着け) 『大好きな』って何だ。何を言おうとした?  思わず自分にツッコミを入れる。  そんなジリアンの物想いは、突然破られた。 「ウィリアム・ディーン。よく聞け。今日この瞬間をもって、そなたとの婚約は破棄する!」  突然、アネットのよく通る声が響いた。  ジリアンはギョッとして、反射的にテーブルに並ぶ人々の顔に注目する。  晩餐会のテーブルに揃った、かなりお年を召した王国の重鎮達の顔は、一堂に「ぽかん」だ。  一方、2人の両親である国王夫妻と公爵夫妻の表情は一言、「無」。  一体、何が起こったのだ?  ジリアンは今日、アネットの影武者として、アネットと同じウエディングドレスに身を包み、結婚式のリハーサルに向かった。  実際のリハーサルはアネットが行い、ジリアンは騎士姿に着替えると、護衛としてアネットに付き添っていた。 (どこかで、問題がなかったか? 思い出さねば……)  晩餐会の大きな長いテーブルで、ウィリアム・ディーンは、アネットの正面の席に座っている。  アネットも、ウィリアムも、テーブルの中央の位置だ。  それぞれの両親が、子どもの両側に並ぶ。  黒の髪に黒の瞳が印象的なウィリアムは、常に落ち着いていて、冷静さを失わない男だった。  今も、ただ静かにアネットをまっすぐに見つめていて、その物言いたげな視線を見たジリアンは、ずきりと心が痛むのを感じた。  しかしウィリアムは淡々と婚約破棄を受け入れてしまう。 「アネット王女殿下、全ては仰せの通りに従います」  ジリアンはウィリアムの言葉を聞いて動揺した。  ジリアンはぎこちなくアネットに歩み寄り、そばに立つと、勇気を奮って声をかけた。 「殿下。ウィリアムの気持ちを……、それに恐れながら、こんな間際になっての婚約破棄による殿下自身への評判もお考えください」
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