色とりどりの世界

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色とりどりの世界

世界は色で溢れている。 誰もがどこかで聞いたことのあるだろう、ありふれた言葉だ。 けれど例えば夏の庭に咲くひまわりの元気な黄色、サルビアの燃えるような赤。 秋の帰り道の紅葉のくすんだ紅、銀杏(いちょう)の鮮やかな黄金色。 冬なら降る雪の目が痛くなるような白に、針葉樹の深く濃い緑。 春の桜の白に滲む薄紅。 私はそれらを目にする時、確かに世界は色で溢れていると実感する。 自然の色は美しい。 森林公園を抜けて市民美術館に繋がるこの道が好きだ。 桜の季節は人が多すぎるけれど、緑の季節、ちょうど今くらいになると休日でも通る人は少ない。 真っ白に舗装された歩道に緑が映え、木漏れ日が白く地面で輝き炭酸の泡みたいに見えると、まるでクリームソーダの中を歩いているようで楽しくなる。 吹き抜ける風の心地よさも手伝って、スキップでもしたくなる。 そんな気候だから、ついうっかり油断した。 ふたりの女性が歩いて来るのに気付かず、はっきりとしまった。 朗らかな笑顔を浮かべ談笑するふたりの周りを、喜びの黄色がふわふわと漂い彩っているのを。 私は一気に気持ちが萎むのを感じて、道端に置かれた薄汚れた角砂糖みたいな四角いベンチに座って、楽しげな彼女らをやり過ごした。 81436f5e-26cb-44df-b8c4-393d06d94925
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