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黒
他人の感情を色で視る。
そんな能力が身に付いてもう5年。
小学3年生の夏に車に轢かれて頭を打ったのがそもそもの始まりだ。
3日間の昏睡から目醒めると、人の顔の周りに様々な色のふわふわした靄が視えるようになっていた。
最初は自分にだけ視えているそれが何なのかわからなくて、お医者さんはまず目の異常を疑い、次に脳の異常を疑ったが、考えられる全ての検査を行って異常がないとわかると、今度は心の病だと言い始めた。
事故によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)、それが私に下された病名。
週に一度のカウンセリングを受け続けても少しの改善も見られないまま1年と少しが過ぎた頃、一人のカウンセラーさんがある表を見せてくれた。
小さな子どもが描いた元気な花のようなそれは8色に染め分けられ、それぞれに感情を表す文字が割り振られている。
喜びの黄色、憧れの黄緑、恐怖の緑、驚きは水色、悲しみの青、嫌悪の紫、怒りの赤、期待や警戒はオレンジ、色の濃淡で感情の強さが異なる。
「あなたに見えるという人の周りの色は8色が基本なんだよね。これはプルチックの感情の輪という感情心理学の表なんだけど、もしかしてこれに近くはない?」
そう言われて思い返すと、何となく思い当たりが有った。
怒っている人からは怒りの赤、泣いている友達からは悲しみの青、犬を怖がる小さな子からは恐怖の緑……多少の差はあっても、確かにこの表のようだ。
そのカウンセラーさんは私の話を疑うことなく聞いてくれて、今でも信頼出来る担当医として話を聞いてくれている。
しかし安心して話せる相手といくら話してもそれが視えなくなる事はなくて、色の意味がわかったことで私は苦手なものが増えた。
※イラストACさまよりお借りしております。
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