40人が本棚に入れています
本棚に追加
変な人にはご注意を
白い遊歩道を抜けた先に建つ市民美術館は黄土色。
やけに四角くて段ボール箱みたいに見える。
入口横にある看板には現在開催中のイベントである『公立中学校絵画展』の文字が有り、エントランスにはスーツ姿の女性がふたり並んで受付をしていた。
毎年市内の各中学校から選ばれた生徒の絵画を展示する地味な催しで、上位3人には賞状とつまらない記念品が贈られる。
入場無料でも受付は必要らしく、中学生だと言うと学校名を訊ねられた。
普段はあまりひとけのない施設だが、催しの内容のせいか中学生やその父兄と思われる人が幾らか出入りしていて、さらっと展示物を流し見すると足早に去ってゆく。
閉館時間近くに来たのは正解だ。
出口に向かって行く人に逆行して展示スペースの奥の方へ歩いてゆくと、うちの学校のエリアに着く。
各学年から数名が選ばれ展示されていて、その中の一つに赤いバラの造花が添えられていた。
『金賞 2年7組 福田 虹花』
その絵の前に女性がひとり立っていて、私はその人を呆然と見つめる。
20歳そこそこという外見は保護者というには若すぎるが、その年齢よりも私の興味を引いたのは感情の色が見えなかった事だ。
彼女は絵の前で目と口を開いたまま、まばたきはおろか息をするのも忘れたようにただ突っ立っていた。
普通、絵に見入っている人というものは、絵から得た感情を表す色を振り撒くものなのに、彼女はまるで置物のように何の色も見せずにいる。
最初のコメントを投稿しよう!