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最悪の月曜日だ。そう思った。
小雨の中傘をさし、家を出て駅に着いた時、とても嫌な感じがした。
いつもは発車時刻を羅列している電光掲示板が真っ黒だったからだ。
反対側の手に持った、袋が重みを増す。
普段、混雑しつつもどこか整然としている人の流れが、今朝は秩序なく蠢き、混乱している。
つまりは、電車の大幅な遅延。
スマホの液晶とにらめっこしつつ小一時間ほど立ち尽くして、漸く来た電車に乗り込む。悪天候に皆一様に濡れた傘を持っているものだから、車内は嵩張り、蒸れた空気が充満していた。
そんな中、二駅ほど進んだところで前の席が空いたのは行幸だった。すかさず降りた人とすれ違いに腰を下ろす。鞄の上に、紙袋が入った荷物を乗せる。
一息ついて、安堵したものの、それは一瞬だった。
とにかく、駅に着くたびに大量の人が詰め込まれるのだ。パンパンに人間を飲み込んだ鉄の塊はその速度もいつもの倍はかかって進む。
手元のスマホの時計を1分毎に確認してしまう。
開店準備に間に合わないかもしれない。
大手チェーン店「どんぶり天国」の雇われ店長。それが自分の仕事だ。
店名は「天国」なんてついているが、実態は「地獄」そのものだった。
前任者が突然消えたのだ。
ある日、急に出勤しなくなった。
そもそも人件費は最小限に絞っている。店長と自分と、あとはキッチンを任せている日本語のカタコトの異国の男が一人。何度出身国の名前を聞いても覚えられない。彼は小さな国だと言っていた。
この三人だけが社員であとはみんなバイトだ。
貴重な戦力が欠けて店はてんやわんやだった。
体調でも悪いのかと遠慮していたが、痺れを切らして電話をいくらかけてもつながらない。
履歴書の住所を頼りにアパートを訪ねても誰も出ない。
何度もチャイムを鳴らした様子に察したのか、隣りの部屋のドアが開き隣人が顔を出して言った言葉に耳を疑った。
「隣りなら、一昨日出てったよ」
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