フライトコール

1/96
前へ
/96ページ
次へ
【一】  たぶん二月なんて、一年で一番寒くて、生き物には平等につらい時期なんだ……。  見知らぬ片田舎の河川敷を歩きながら、そんなことを思っては見たが、やはり何の慰めにもならなかった。  何度見返しても、自分の古ぼけた財布の中身は千二百六十円に変わりなかったし、それが全財産だと言う事にも変わりなかった。 「あぁ、マジかよ」 友井祐介(ともいゆうすけ)は、晴れ渡る冷たい空に、思わず小さく嘆いた。  この町に向かうバスの中では、それでもわずかに希望はあったのだ。  半年前に金を貸した友人に会い、いくらかでも返してもらえれば、まだ何とかなると。  とりあえず住む場所を決め、止められている携帯代を払い、街金からの借金の、利息分だけでも払えれば――。  けれど、その最後の望みも(つい)えてしまった。なけなしの金で電車とバスを乗り継ぎ、この田舎町まで足を運んだのに、無駄骨に終わってしまった。  万事休す。絶望感で、ため息も出ない。  こんな状況に至るまでの過程を反芻する気力もなかった。運が悪かったと言って片付けてしまえばそれまでだが、結局その不運も、自分の至らなさが招いたことなのだと、祐介は自覚していた。  負け組、落伍者、ダメ人間。  頬に当たる風にまでそんなことを囁かれているような気がする。  ――ああ、腹が減った。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加