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少女の歩くスピードはとても速かった。それなのに、その左の拳に乗った鷹は、まるで木の枝に止まっているように、ほぼ揺れることもない。
灰黒色の翼は水をはじいて、もうすっかり乾いたように見え、祐介は、いまだにぐっしょり濡れネズミの自分が、みすぼらしく感じた。
――いいな、お前は。
心の中で愚痴を言ってみるが、安息の場所に帰れた鷹が少しばかり羨ましく思えただけで、この鷹を助けたことに、まったく後悔はない。
ただひとつ言えば、この妙な沈黙がすこしばかり辛かった。
彼女はおしゃべりなタイプではないらしい。
少女の横に並んで歩きながら、祐介は自分から話しかけてみることにした。
「よく懐いてるね、その鷹。さっきその鷹が足環してるのが見えたから、野生じゃないんだろうな、ってのは思ったけど……」
「はい」
少女は真っ直ぐ前を見たまま答えた。
「腰にもなんかついてるよね。鈴?」
「はい。見失わないように」
またもや素っ気なかったが、これが彼女の普段の口調なのだと、何となくわかって来た。
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