フライトコール

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 祐介が専門学校に行っていたのは、一年前までだった。いわゆる俳優養成所だ。  三人兄弟の末っ子に生まれた祐介は、成績の面で二人の兄にかなり劣っていた。  一流大学を出て、医師になった長男、商社に勤め、世界中を飛び回る次男。  けれど祐介がようやく受かったのは、地元の三流大学だった。  両親や兄の落胆っぷりはあからさまで、何度皮肉を言われた事か。  親戚連中からも侮辱を受け、元々劣等感が強かった祐介を打ちのめした。  こうなったら周りが驚くような一流どころに就職するしか道はないと、無謀にも大手ばかりを狙って就活に励んだが、卒業までに結局、どこの内定ももらえなかった。  苦肉の策に選んだのが、俳優養成学校だった。  中学校の演劇の出し物で、先生や級友に褒めてもらったことが頭にあり、パンフレットを見た時、これだと思ったのだ。きっと就活にあぶれたのも、運命だったのだ。俺は役者になるんだ、と。  入学金と、ワンルームマンション三か月分の家賃だけ親から援助してもらい、役者になるまで帰らないからと大見えを切って、地元をあとにした。家族は冷笑したが、本気で、そのつもりだった。
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