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けれどそんなに甘いものではない事を、祐介は半年で痛感した。
演技、歌唱力、ダンス、ナレーション。そんなレッスンを週に十時間くらいやったところで、得られるものはたかが知れている。
売り込みに行くのも、事務所にオーディションに行くのも、結局すべて自分なのだ。チャンスを待っていても、そんなもの誰も与えてくれない。
バイトに明け暮れながら、それでもレッスンを続けた。息抜きに遊ぶ金は皆無だった。
楽に稼げるバイトは無いだろうかと探すうち、結局行きついたのは夜の水商売だった。
ホストは実入りが良かったが、酒が苦手で何度か意識が飛び、結局体を壊して二カ月でやめてしまった。
その後、パブでボーイをしたり、クラブの呼び込みをしたり、とにかく働いた。体はかなりガタガタだったが、一般の同世代よりも稼げていると言う事だけが、自信になっていた。逆に言うと、それ以外には何もなかった。
俳優養成学校は二年ほど続けてはいたが、仕事が忙しくてレッスンに行けず、結局やめてしまった。住んでいたワンルームマンションを出たのもその頃だ。
ホスト時代に知り合った羽振りの良い中年女性が、部屋が空いてるから住んでいいと、都心の一室を与えてくれたのだ。
たまにふらっと訪ねて来て、徹夜で酒につき合わされることもあったが、ただの気まぐれで寂しい金持ちだった。
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