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とにかく家賃も浮いた。
誇れる仕事とは言えないが、このまま貯めれるだけ金を貯めて、いつかそれを元手に起業でもできたらカッコいいじゃん。
そんな甘い夢を抱いているときに、初めて祐介を競馬に誘ってくれたのが、パブのボーイ仲間の岡田零士だった。
とにかくギャンブルが好きで、年がら年中に金欠病の零士だが、心根はとてもいい青年で、祐介とも気が合った。
「今日は来そうな予感がするんだ。今までの分を取り戻すところを見ていてくれ!」
そう言いながら一回のレースで何万も掛けていく。
祐介は目の前の友人がどんどん散財して行くのを見守った。
零士は狙っていたはずの最終レースを待たずに資金を使い果たし、結局祐介だけが賭けることになった。
予備知識もない自分が簡単に勝てるわけもないし、気負うこともない。祐介はパドックで適当に選んだ栗毛の馬に、単勝で一万円ほど賭けたのだが、まさかの万馬券を勝ち取ってしまった。
「おまえ、天才じゃないか? マジすげえよ。俺だったら絶対取れてなかった」
自分は文無しのくせに、涙目で祝福してくれた零士がなんとも気の毒になり、祐介は払い戻し金の百十二万円のうち、三十万を零士に渡した。零士が誘ってくれなかったら手に入ってなかった金なので、返してもらおうとは思っていなかった。
けれど零士は、「必ず返すから。俺、一か所に定住しないし携帯も番号変えがちだから、一番確かな実家の住所を教えるよ。あそこは定期的に帰るし。金に困ったらぜったい催促に来てくれ」と、メモを渡してくれた。
その日の事とは特に関係ないかもしれないが、零士はその次の日から店に来なくなった。携帯もつながらない。
気にはなったが、「何かもっと割のいい仕事を見つけたらしい」という仲間の情報に、少し安堵した。
どこかで何とか暮らしていてくれればいい。そう思っただけで、零士が自分の前から姿を消したことに、ガッカリはしなかった。
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