5人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
取りあえず自分自身は、収入も十分あった。
それなりに頑張ってもいたし、「俺の人生、なんとかなる」この後の四カ月ほどは、そう楽観していた。
けれど、やはり人生、そんなに甘いものではなかった。
パブの上得意客から勧められた、少し怪しげな大口の投資話に乗って、預金のほとんどを無くしてしまった事が転落への第一歩だった。
自信喪失、自己嫌悪、人間不信。仕事にも身が入らず、ついにはクビになった。
生活費も乏しくなり、次のバイトが見つかるまでの資金だからと街金から金を借りたが、思うような職場も見つからず、その利息のふくらみがジワジワ祐介を脅かした。
追い打ちを掛けるように、今から一週間前。住んでいたマンションに、突然私服刑事と捜査員数人が来て言ったのだ。この部屋の持ち主である女が、麻薬所持で逮捕されたのだと。
隅々調べられた結果、その部屋からは何も出て来なかった。
ひとまずホッとはしたが、警察は、祐介にも後日任意で事情を聴くので、とりあえず連絡を取れる状態にしておいてほしいと言い残して帰って行った。
料金滞納で、通信不可になったままの携帯の番号を教え、しばらく呆然としていたが、このままこの部屋にのんびり住むわけにもいかない。
祐介は慌てて荷造りし、マンションを飛び出した。
その後の一週間はとりあえず、なるべく深く考えることをやめ、ネカフェで過ごした。
僅か数万の全財産を増やそうとして場外馬券場に行き、ほぼスッてしまったのが二日前。
やはり半年前の万馬券は単なるビギナーズラックでしかなかったのだと思い知る。
究極に追い詰められすっかり気力を無くした昨夜、デイパックの底から見つけたのが、零士の実家の住所のメモだったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!