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そんな自分の呆れた事情など、どうかいつまんで説明しても、ダメ人間の烙印を押されるだけに思える。
濡れたジーンズと靴がどうしようもなく気持ち悪いが、今の自分にはお似合いのような気もして来て乾いた笑いが出た。
「あ、おばあちゃん」
緩い坂道を登りながら、緋央が不意に言った。うなだれて歩いていた祐介は顔を上げる。
「あそこが家です」
緋央の指さす方を見ると、坂の途中にポツンと民家があり、その家の前に小柄な初老の女性の姿が見えた。緋央や祐介にはまだ気付かないようで、しゃがんで、何か作業をしている。
けれど、祐介が気を取られたのは全く別の事だった。
「あれ、ここ……」
周囲を見渡す。やはり間違いない。
「ここ、さっき来たんだ。ほら、あっちに見える白い外壁の家。あそこが零士の家なんだ。金を貸した友達の話したろ? 緋央ちゃんの家の近くだったとか、すごい偶然」
緋央の家の横の坂道を少し上がって右に逸れた場所だ。距離にして百五十メートルもないだろう。
「ああ、あの家」
「緋央ちゃん、知ってる? 零士のこと」
「いえ……。あそこは誰も住んでないと思ってました」
緋央は少し首を傾げる。薄い反応だ。
「でも、わりとご近所さんだし、なにか噂とか――」
「緋央。どうしたの? なにかあった?」
先ほどの女性がこちらに気づいて大きく手を振った。
緋央は足を速め、祐介もそれに続いた。
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