5人が本棚に入れています
本棚に追加
横を流れる川に浮かぶカモたちの、呑気そうな鳴き声に交じって腹の虫が鳴った。
昨日の晩にコンビニのおにぎりを一個食べただけだった。けれど、今や最後の命綱になってしまった千二百六十円を、ここで昼飯に使ってしまう訳にはいかない気がした。
「マジ詰んじまったぞ、カモ」
思わず声に出してみたが、空しいだけだった。
丸々と太ったカモたちは我関せずで水の中の頭を突っ込み、水草か小魚を探しては食べている。
自給自足か。気楽でいいな。
そういえば、以前食った鴨鍋はうまかった。薄切り鴨肉は脂がのってて歯ごたえがあって、甘めの出汁に鴨の油が溶け込んで、くたくたに煮た白菜と一緒に食べたらもう最高で、その後のうどんがまためちゃくちゃ相性良くて止まらなくて……。
そこまで思ったらもう、堪らなかった。
目の前に、あの美味い鴨がぷかぷか浮かんでいるのだ。値札もついてなくて、取り放題のご馳走が。
背中のデイパックの中にはライターもある。こっそり山の中で焼けば、食えるんじゃないだろうか。塩コショウくらい買おう。きっと最高のジビエになる。
すでに祐介の足は川岸に向かっていた。
獲れるかどうかは、二の次だった。
最初のコメントを投稿しよう!