フライトコール

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「祐介さん、銀を助けてくださってありがとう。私からもお礼を言わせてね。さあ、あなたも手を見せて。あらら~、本当だ。銀ったら派手に暴れたのね。ひどい引っかき傷。痛かったでしょうに」 「あ、いえ、あの、夢中だったので」 「まずは手当てして。着替えも探さなきゃね。さ、とにかく入って入って」  (さかえ)はまったく戸惑うふうもなく祐介の手を掴んで玄関の中に引っ張っていく。掴まれた手の温かさに、祐介はじんわりと気持ちが落ち着いて行くのを感じた。  引き戸を開けて薄暗い玄関に入ると、そこは広い土間で、右手に柵の着いた2畳くらいの小部屋があった。銀の部屋らしい。すでに止まり木に止まっている銀の横で、緋央が丹念に羽根の状態を調べている。  その部屋の前を通り過ぎた所にようやく、廊下へと続く()がり(かまち)があった。 「さあ、上がってちょうだい」 「え、でも、濡れてて」 「いいからいいから」  有無を言わさずひっぱりあげられ、居間らしき部屋で所在なく立っていると、まもなく栄が、救急箱と、スウェットの上下を持って現れた。 「おじいちゃんの服が残っててよかったわぁ。祐介さんパンツ濡れた? さすがにパンツは残ってなかったんだけど」 「いや、そんなの平気です!」  思わず赤面すると、栄はおかしそうに声を上げて笑う。  祐介は自分が子供に返ったような、説明のつかない居心地のよさに包まれた。  ――緋央は暖かい家で育っているんだな……。
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