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「あ、でもなんで栄さんはさっき、緋央ちゃんがミスをしたって思ったんです? 何も言わなかったのに」
傷の簡単な処置をしてもらい、濡れたジーンズをスウェットに履き替え、ホッコリしたところで栄に訊いた。
「自分が失敗したり悔しかったりしたとき、あの子は右手を握り締めるのよ。爪が食い込んで血が出る程。良くない癖だけど、やめさせられなくて」
栄は祐介の服を抱えながら言った。
「そんなに大きな失敗、したんでしょうか。俺には分からなかったけど」
「飛ばす方向を見誤ったか、狙う獲物を間違えたか」
「でも完璧でしたよ、銀の狩りは。川の上を滑るようにすーっとカモを追いかけて、俺の横でガシッと捕まえて、草むらに着地して。あそこでテグスなんかが無けりゃ、完璧でした。本当に」
「川に沿って? ずいぶん長い距離を飛んだの?」
「そうですね、たぶん」
「変ね。追いかけたのは、どんなカモだった?」
「え、名前は分からないけど、小ぶりな感じの」
「赤と緑の混ざった顔の?」
「あ、そんなカラフルなやつ」
「ああ、そうか、そう言う事か」
「え、どういう?」
栄はにっこりしつつも、どこか悲し気な表情で、奥に消えた。
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