フライトコール

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   *  納屋の二階は、四畳半ほどの板間だった。  古い家具や陶器などが隅にかためて置いてあったが、小窓や照明もついていて、物置と言っては失礼なほど、ちゃんとした部屋だった。  少しガタつく木枠の窓を全開にし、床をほうきで掃いた後、丁寧に何度も雑巾がけをする。貸してもらった布団を母屋から運んで敷くと、快適な寝室になった。  少し早めの夕食は、栄の言った通りシシ肉の鍋だった。祐介の食いっぷりに驚きつつ、もっと食べろと、栄は肉をどんどん追加してくれた。  鍋の野菜は、ほとんど栄が露地栽培で育てたものらしい。  二種類を農協に卸しているが、あとは趣味みたいなもので、生計の方は、農地を別の農家に貸して立てていると言う事まで、気さくに話してくれた。  祐介も、久々に家族団らんの気分を味わい、緋央には話さずにいた自分のあれこれを、自然な流れで口にした。  就活に失敗して、もう一度学び直そうとして実家を出た事、結局芽が出ず、夜のバイトにすべての時間を使うようになってしまった事。怪しい投資話に乗ってしまい、ほぼ貯金を無くした事。さらに住む場所まで無くし、デイパックひとつで街を放浪していた事。  話しにくい部分を除いて、七割くらいは話しただろうか。栄は「あらまあ」「それは辛いわよね」など相槌を挟みながら、親戚のおばちゃんのように親身に聞いてくれた。  最終的に、話は零士の事に及んだが、それまで黙って聞いていた緋央が、そこで思い出したように、栄に切り出した。「おばあちゃん、零士さんがどこにいるか、知ってる?」と。 「そこの岡田さんちの息子さんが、探してたお友達だったなんて、本当に奇遇よね」  栄は改めて驚いたように唸る。
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