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期待して前のめりで栄の答えを待ったが、得られた情報は、わずかだった。
零士の両親は、零士の高校卒業を機に離婚し、それぞれに再婚してこの町を出て行ったが、その際、あの家と土地だけ息子に残したらしい。
当の零士はこの片田舎が嫌だったのか家を出ていってしまい、年に一、二回姿を見ればいい方だ、という。
――やっぱり、めったにここには帰ってないのか……。
祐介は平静を装いながら、栄の育てた白ネギを頬張った。甘くておいしい。けれど、気持ちの落胆が止まらない。
「ネギ、おいしい?」栄が聞く。
「はい。ネギも白菜も、人参も春菊も、ぜんぶ美味しいです」
「大根もでっかいのがいっぱい収穫できそうなの」
「そうなんですか」
「二、三日手伝ってもらおうかな、畑仕事」
「あ、はい。……え?」
顔を上げると栄の笑顔があった。
「あの納屋にしばらく泊まっていいから、零士君の消息探してみたら? 私もいろいろ知り合いに訊いてみてあげるから」
緋央も、ちいさく頷く。
感無量だった。「やだ、もうそれやめてよぉ」と、栄は笑ったが、畳に額が付くぐらい深く、祐介は頭を下げた。
どんな農作業でも全力で手伝おうと思った。
たとえ零士が見つからなくても、全力で好意に報いようと。
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