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【二】
翌朝も、ピリリと空気の澄んだ晴天だった。
祐介は、日の出とともに目を覚まし、これから畑に野菜を収穫に行くという栄に同行した。
歩いて十分ほどの高台にあるその畑は、想像していたよりも広く、とても家庭菜園のレベルでは無かった。
「俺、たくさん収穫手伝います!」と言うと栄は、「大根二本とほうれん草少しだけでいいのよ」と笑った。
自分が引き抜いた大根を誇らしげにぶら下げて母屋に戻ると、銀の部屋の中を、パジャマ姿の緋央が掃除していた。
濡らした床をデッキブラシでこすったあと、慣れた手つきでバケツの水を流す。束ねていない長い髪が、動きに合わせて柔らかく揺れて、祐介はドキリとする。
「ぎ、……銀は元気?」
少しだけ迷ったが、声をかけてみた。
止まり木の鷹は、見るからに元気そのものだ。
「はい」
「よかった。……えと、銀も朝ごはんの時間?」
「朝は食べさせません。九時くらいには狩りに出ようと思うので」
「あ、そうなの?」
「はい」
そこで会話が終わってしまった。
台所に大根を運ぶと、栄が教えてくれた。
「適度に空腹でないと獲物を狩ってくれないし、空腹すぎると獲物を自分で食べちゃうし。なかなか難しいみたいよ。緋央は銀の体調と気力すべてを完璧に調整しちゃうのよ。もしかしたら、正信さんよりも銀の事分かってるかも」
「きっと正信さんの教え方がうまかったんでしょうね。俺もあんな風に鷹を操れたらなあ。カッコいいし、たくさんカモ食べられるし」
「そんな事言うと、緋央に怒られちゃうかもね」
「え、どうしてですか?」
「んー、それは緋央に聞いたらいいわ」
「いやですよ、俺、怒られたくないですもん」
「そうだ、このあと緋央と一緒に狩りに行きなさいよ。いろいろ分かるかも」
「わ、それ嬉しい。もういっぺんちゃんと見たかったんです、銀の狩り。でも緋央ちゃんの邪魔になんないかな」
「……って言ってるけど、大丈夫よね? 緋央」
栄は、祐介の後ろに視線を向け、話しかける。
振り返ると、緋央が立っていた。
了解したと、緋央は無言で頷いた。
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