フライトコール

27/61

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
【二】  翌朝も、ピリリと空気の澄んだ晴天だった。  祐介は、日の出とともに目を覚まし、これから畑に野菜を収穫に行くという栄に同行した。  歩いて十分ほどの高台にあるその畑は、想像していたよりも広く、とても家庭菜園のレベルでは無かった。 「俺、たくさん収穫手伝います!」と言うと栄は、「大根二本とほうれん草少しだけでいいのよ」と笑った。  自分が引き抜いた大根を誇らしげにぶら下げて母屋に戻ると、銀の部屋の中を、パジャマ姿の緋央が掃除していた。  濡らした床をデッキブラシでこすったあと、慣れた手つきでバケツの水を流す。束ねていない長い髪が、動きに合わせて柔らかく揺れて、祐介はドキリとする。 「ぎ、……銀は元気?」  少しだけ迷ったが、声をかけてみた。  止まり木の鷹は、見るからに元気そのものだ。 「はい」 「よかった。……えと、銀も朝ごはんの時間?」 「朝は食べさせません。九時くらいには狩りに出ようと思うので」 「あ、そうなの?」 「はい」  そこで会話が終わってしまった。  台所に大根を運ぶと、栄が教えてくれた。 「適度に空腹でないと獲物を狩ってくれないし、空腹すぎると獲物を自分で食べちゃうし。なかなか難しいみたいよ。緋央は銀の体調と気力すべてを完璧に調整しちゃうのよ。もしかしたら、正信さんよりも銀の事分かってるかも」 「きっと正信さんの教え方がうまかったんでしょうね。俺もあんな風に鷹を操れたらなあ。カッコいいし、たくさんカモ食べられるし」 「そんな事言うと、緋央に怒られちゃうかもね」 「え、どうしてですか?」 「んー、それは緋央に聞いたらいいわ」 「いやですよ、俺、怒られたくないですもん」 「そうだ、このあと緋央と一緒に狩りに行きなさいよ。いろいろ分かるかも」 「わ、それ嬉しい。もういっぺんちゃんと見たかったんです、銀の狩り。でも緋央ちゃんの邪魔になんないかな」 「……って言ってるけど、大丈夫よね? 緋央」  栄は、祐介の後ろに視線を向け、話しかける。  振り返ると、緋央が立っていた。  了解したと、緋央は無言で頷いた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加