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すっかりきれいに洗濯されたジーンズに履き替え、祐介は緋央と並んで昨日通った道を、川の方に向かって歩く。
革のグローブを嵌めた緋央の左手の上で、銀はほぼ揺れることなく、安定して前を向いている。
ブルーグレイの背中も金色の鋭い目も、見れば見るほど綺麗な鳥だと、祐介は思った。
「俺の手にも乗ってくれるのかな、銀は」
銀の顔を覗き込みながら祐介が言うと、緋央はきっぱり「今は無理です」と答えた。
「今は?」
「狩りの前だから。訓練を受けていない人の手に乗ると、体力を消耗してしまうんです」
「手に乗せるのにも、訓練が必要なの?」
「拳に鷹を止まらせることを『据える』と言います。完全に止まり木のように安定させられるまで、三年はかかります。私は小学四年生から練習を始めました」
「げ、そんなに難しいの? それって正信さん独自の訓練法?」
「諏訪流です。私の師匠はお爺ちゃんだけど、お爺ちゃんは厳格に諏訪流を継ぐ鷹匠でした」
「鷹匠にも流派があるんだ。すごいな。それって、厳しい戒律とか、狩りの極意とか伝承するの? ……って、ごめん。軽々しく教えてもらえるもんじゃないよね」
緋央の返事は無かった。
民家と田んぼの間の、細い農道をしばらく二人で黙って歩く。
最初ほど、この沈黙が気にならなくなっていた。緋央の言葉は、気長に待てばいい。
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