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両岸に葦などの障害物が無い場所まで、更に七分ほど歩いた。
鷹は、移動の際のわずかな振動や、目から入る情報だけでも疲れてしまうので、徒歩で行くのは二十分が限界なのだと緋央は言った。
十八歳の誕生日には真っ先に運転免許を取って、銀を自分の運転する車で狩場に運ぶのが、今一番の目標らしい。
幅も狭く、障害物も無い浅めの川が前方に見えたあたりで、緋央は祐介に「止まって」、とジェスチャーした。
川の中程にはカモが五、六羽、のんびりと浮かんでいる。昨日見たカモたちとは違って、オスは首から上が鮮やかな緑色をしている。
「カモは鷹の姿を見たらすぐに飛び立ってしまうから、ここからは慎重に行きます。なるべく身を低くして」
緋央の支持に従い、祐介も極力身をかがめ、物音を立てずに近づく。銀も緋央の狙いを感じ取ったように、手の上で微動だにしない。じりじりとにじりより、土手の一番端まで行ったところで、緋央は静かに立ち上がった。
銀の姿を認めたらしいカモたちは、川の中程で一斉に羽ばたき、水面を蹴散らして空へ舞い上がる。けれど緋央は少しも慌てない。舞い上がったカモの一羽に照準を合わせ、さっと振りかぶった左手から、それに向けて銀を投げたのだ。
投げた、としか表現できなかった。
緋央の手から勢いよく投げられた銀は、標的に向かって矢のように真っ直ぐ飛んだ。
すぐに間を詰め、軽く接触した、と思ったその直後には、もうその爪にしっかりとカモの腹をつかんでいた。
本当に、あっという間の出来事だった。
鈴の音を軽やかに鳴らしながら、銀は悠々と、川の向こう岸に降りていく。緋央はすでに岸まで走り下りていて、川の中程に突き出た小岩を軽やかに飛びながら、濡れることなく銀の傍に行きついた。
祐介もすぐにその後を追う。
昨日見た狩りとは全く違うスピード感に圧倒され、川を渡る間も興奮が止まらない。素人目にも見事なハンティングだった。
がっちりと鋭い爪で獲物の腹を掴み、その羽毛をむしっていた銀は、緋央がそのカモに触れた瞬間、ふっと力を緩め、あっさりと獲物を譲り渡した。
代わりに緋央から小さな餌をもらう。
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