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思わず祐介は緋央の手元を振り返る。
下処理はほぼ終わり、カモの内臓は小さなビニール袋に収まっていたが、緋央の指には、汚れた固形物が挟まれていた。
「なにそれ」
「胃の中に入ってたんです」
緋央は答えるとすぐに、ミニボトルの水でその固形物を丁寧に洗った。
「指輪……でしょうか」
近寄って良く見ると、緋央の言う通り、それは金と銀のメッキがストライプ状に施された、小さなリングだった。祐介の小指の先までしか入らないくらいの、小さなものだ。
そしてそのリングには二センチ四方の、薄い革製のタグが紐づけされていた。表面には印刷ではなく、人の手で書かれたような文字が記されていた。
『SOS! ブタ小屋にかんきんされています』と。
ペンではなく、細い針のようなもので、引っかいて刻んだように見える。
祐介と緋央は一瞬目を合わせ、すぐにタグの裏面を見た。そこにも同じように何かの情報が書かれていたようだが、掠れてしまって、ほとんど読めない。
「住所が書かれていたのかもな。この監禁場所の」
言葉にしてみて、事の重大性がじわじわ実感できた。これが冗談やイタズラでないとしたら、大変な事だ。
「たまたま、こんなものが落ちていて、カモがそれを飲み込む確立って、どれくらい?」
手の上のそれをじっと見つめる緋央に、訊いてみた。
「ほとんどありません。カモは小魚やカエルを丸飲みすることはありますが、こんな金属は口に入れません」
「だよね」
「カモが好きな食べ物の中にねじ込んでおけば、別でしょうけど」
「あ、ってことは、意図してカモに飲み込ませた?」
「そんな気がします」
「何にねじ込んだのかな。小魚?」
「さあ。もう消化してしまっていたので。ただ分かるのは、カモが飲み込んで、そんなに日数は経っていないと言う事だけです。消化できないものは、数日のうちに吐き出してしまいますから」
「じゃあ、こんな異物を飲み込んでも、死んでしまう事はないんだ」
「毒性の強いものや鋭利な刃物でなければ、たぶん」
「じゃあ……。本題に入るけど、これって、本物のSOSだったりするのかな……」
緋央に訊いても答えが出るわけでもなかったが、祐介自身、どう処理していいのか分からない。
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