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「ただの子供のイタズラなら、なんてことないんだけど、もし本当だったらって思うと捨てて行けないし」
「とても苦労して書いた筆跡に見えます。カモに食べさせるために、工夫したみたいですし。この指輪も……気になります」
「それ、俺も思った。何のための指輪だろうって。デザインや大きさからみて、女の子の指輪だし、もしかしたら、これ自体が、その子を特定するものなのかも。イニシャルはないけど」
「女の子……」
「そんな気がしない? このSOSの文字も幼いし、穴のサイズもすごく小さいし、中学生くらいのような気がする。カモしか周辺にいなくて、カモにメッセージを託したのかも」
「カモに飲み込ませて、人の手に届くって、思うでしょうか」
「そこね。ん~、まだ子供だから、そこまで深く考えてなかった、とか」
「だけど、本当にそうなら、これは私たちが持っていていいものじゃないかも……」
緋央の言葉で祐介は、はっと我に返る。
大好きなミステリー漫画を読むような感覚で、少し興奮気味に推理を巡らしていたが、緋央の言う通りかもしれない。
本当に事件性のあるものなら、しかるべきところに届けるべきだ。
「警察……ってことかな」
「……警察、ですか」
祐介以上に、緋央の声も、沈んで聞こえた。
「やっぱりなんか、違うって感じするよね。カモの腹から出て来たものを、警察に届けるって。ふつうこんなの、相手にしてもらえるわけもないよ。警察だって、暇じゃないんだし」
自分で提案しておきながら、けっこう真剣に祐介はそれをかき消そうとした。
警察は、今の自分にとっては、避けて通りたい機関でしかない。
街金の借金の返済が滞っていることも、警察との連絡を絶ってあの部屋から消えた事も、罪には問われないまでも、どこか後ろめたい。いや、麻薬所持の件など、何かの間違いで自分に疑いがかけられないとも限らない。下手に自分から警察に近づき、所在を明かすのは、避けた方がいい気がした。
「気にはなるけど、これは俺たちの中だけで処理したほうがいいような気がする。警察だって、迷惑がるだろうし」
「私も、警察に届けるのは無意味だと思います」
手の中の指輪とタグを見ながら、緋央も静かに言う。
「あ、そう思う?」
「警察は、結局、何もしてくれません。何も、……してくれませんでした」
「してくれなかった?」
「はい、お爺ちゃんの時」
「え、お爺ちゃんの時って、……亡くなった時?」
緋央は頷く。
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