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白崎家まで戻ると、栄が家の前の道端で、近所の主婦らしい人と立ち話しをていた。
盛り上がっている様子なので、調査報告は後回しにし、声だけかけて前を通り過ぎる。
緋央は「銀にごはんを上げてくる」と、先に母屋へ入って行った。祐介も、納屋の二階の部屋に、デイパックを置きに戻る。
納屋を出ると、ちょうど栄が玄関に入ろうとしていたところだった。近所の主婦は帰って行ったようだ。
「ごめんね、回覧板を受け取ったら、お隣の奥さんと話がはずんじゃって。で、どうだった? 調査は」
栄は、手に持ったA4のバインダーを脇に抱えて訊いて来る。祐介は、さっそく仕入れた情報を伝えてみた。
「浅野牧場かぁ。そう言えばそうよ。あれもブタ小屋だわ」
彼女はハッとしたように目を見開き、手をパチンと叩いた。やはり緋央が言った通り、かなり規模の大きな養豚場だったため、監禁場所のイメージと重ならなかったらしい。
「その養豚場の経営者って、正信さんの同級生なんですね」
「そうなのよ。幸三さん……って名前なんだけどね。高校まで正信さんと同級で、地元の付き合いもなんだかんだあったしね。互いの家に行き来するほどの仲じゃないから、私も直接の面識はないんだけど、正信さんは、よく話に出して来てたわ」
「それで緋央ちゃんも知ってたんですね」
「で、調査に行くの?」
「はい、そう言う事になりそうです」
「じゃ、夕ご飯食べながら作戦練りましょうか」
どこか子供のゲームの話に混ざるような、軽い口調で栄は言う。やはり、本当に事件につながっているとは、思っていないのだろうと、祐介は感じた。
「ですね。あ、緋央ちゃんは先に入って銀にごはんあげています」
「銀のごはんあげてるところ、見て来る?」
「なんですか?、銀のごはん」
解凍したネズミやヒヨコだと言うので、今日はちょっとやめておきますと、丁重に断った。
そのかわり、自分たちの夕食の準備手伝います、と自ら手を上げる。今夜の夕食は、今朝獲ったマガモの鍋らしい。
「じゃあ、先に大野さんの奥さんに回覧板持って行ってくるから、ちょっとだけ待ってて」
栄は回覧板にサッと目を通し、玄関口に置いてあったペンでチェックを入れたが、何かを思いついたようにくいっと祐介を振り返った。
「そうだ、大野さんのところって、民生委員やってて、この辺の家の事情に詳しいから、なにか零士君の情報、貰えるかも。家も零士くんちのすぐ傍だし。大野さん、先週からずっとお留守だったけど、さっきお隣の奥さんに訊いたら、つい今朝方、帰ってらしたみたいなのよ。祐介君、回覧板持って行って、そのついでに訊いてみる? お使い頼んじゃって悪いけど」
「本当ですか。零士に関する情報が全く無かったから助かります!」
思わず声が弾む。
祐介は回覧板を受け取り、すぐに飛び出した。
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