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「へぇ~、幸三さんが、零士君のおじさんだとはねぇ」
祐介の持ち帰った情報は、案の定、栄を驚かせた。
夕食の支度を手伝っていた緋央も、興味深そうに祐介の話に聞き入っている。
「他人よりも縁の薄い親戚みたいだけど、今までの中では一番有力な情報です」
「なんだかんだ言っても、甥っ子だものね。零士君の方が慕ってるって事も、あるかもしれないし」
「あ、それあり得ます。零士ってけっこう人懐っこいところあるから」
話しながら、祐介もせっせと栄を手伝った。
さっきまでは仕入れた情報で頭が一杯だったが、鴨鍋の事を思い出した途端、脳内はあっさりそちらにシフトされてしまった。
ようやく準備が整い、三人で食卓を囲む。
コンロの上でぐつぐつ煮立った出汁に、栄が薄く切った赤い鴨肉やネギを入れていくのを、祐介は目を輝かせて見守った。
「肉が締まってていい色ねぇ。脂も綺麗に入ってる。良いマガモだわ」栄が言う。
「これ獲った時、本当にカッコよかったです。飛び立ったカモにバシッと銀を投げるんですよ。そしたら矢のように飛んで一瞬のうちにカモ捕まえちゃって」
話題は一旦、カモ狩りで盛り上がった。
煮えるのを待ちながらジェスチャーまじりで話す祐介に、栄はニコニコ笑い、緋央は困ったようにコンロの火を見つめる。
獲物に向けて、鷹をまるで投げるように勢いよく飛ばすことを「羽合せ」というのだと、栄は教えてくれた。
鷹と鷹匠は瞬時に同じ獲物に的を絞り、鷹匠は絶妙のタイミングで羽合せる。人鷹一体の技を、緋央はちゃんと正信から受け継いでいるのだと、栄は誇らしげに言った。
緋央はやはり黙ったまま、ただ恥ずかし気に目を伏せ、引き続きコンロの火を見つめている。
褒められるのが苦手らしい緋央の、そんな仕草も祐介は好きだった。
狩りの技の話をもう少し聞きたいところだったが、ちょうど鍋が湯気を吹きあげた。
「ああ~……、うまいっ。これだよこれ。この味、この歯ごたえ、この脂の溶け具合、甘い出汁と白菜とネギ! 自然の恵みに感謝」
はふはふしながら騒がし気に食べる祐介に、栄は頷く。
「こうやって自然の恵みに感謝して味わえるのも狩りの醍醐味のひとつだって、正信さんもよく言ってたわ。シシ撃ちやめて、鷹匠一本に絞ってからは、その感覚がより大きくなったって」
「え、鷹匠の前は、猟師をやってたんですか」
「そうよ。農業の傍らね。シシや鹿が農作物荒らすから、駆除目的も兼ねてたんだけど、猟友会メンバーも増えたし、俺は鷹匠一本でやって行くって」
正信が猟銃を手放したのは四十代の終わりで、五十歳からは自らオオタカやハヤブサを育て、カモやヤマドリ、キジを狩るようになったらしい。
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