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「鷹に惚れ込んでたのね。人間に容易く懐かない、わがままで気高くて、それでいて繊細な鷹と呼吸を合わせ、自分も自然のひとつになる瞬間が堪らないんだって言ってた。本当にねえ、どの鷹も私にはちっとも懐かなくて、よくあんな鷹を操って狩りが出来るもんだって思ってたもんよ」
栄は笑う。
「緋央ちゃんは、正信さんの血を受け継いでるんですね。銀はすっかり懐いてるし」
「懐いているんじゃないです」緋央は小さく反論した。
「前にも言ったけど、鷹は懐きません。ただ、利用価値があると判断した人間を、パートナーと認めて傍に置いてくれるだけなんです。鷹が捕まえた獲物を渡してくれるのは、それを人間が食べやすいように処理してくれると分っているからで、あくまで鷹匠は鷹の下部なんです」
「わあ、……やっぱりそういうことなんだ」
「面白いでしょう。鷹匠にとって、鷹は人間よりも崇高なんですって。私にしたら、歴代のオオタカやハヤブサたちって、すごく我が儘でやんちゃで、成長しない子供って感じだったけど」
緋央が少しだけムッとした顔で栄を見つめた。それがおかしくて祐介も栄も笑う。
「でもねえ、銀は、他のタカたちとは違って、特別優秀な子なのよ」
ね、と栄は緋央に目配せする。
「そうなの?」
祐介が問うと緋央が頷いた。
鷹は猟期が終わると、半年は訓練を休ませるのだが、九月になり次の猟期の訓練に入る頃には、大抵の事を忘れてしまうらしい。
鷹匠以外の人間の顔を覚えることも苦手で、栄はいつも歴代の鷹たちに怯えられていたという。
「けれど銀は違いました。一度教えたことは訓練を長期間休んでもしっかり覚えているし、この家の家族はみんな認識していたし、良く訪ねて来る近所の人も認識し、無暗に怖がることはありません」
「俺の事も、怖がらないでいてくれるしね」
「初対面で乱暴されたけれど、ちゃんと自分を助けてくれた人だと理解したから気を許したんです。もしも悪意を持って乱暴されたのなら、ずっと忘れずに威嚇すると思います」
「そっか……。何か、嬉しいなあ」
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