フライトコール

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「お爺ちゃんが残して行った優秀な銀は、私が大事に受け継がなきゃいけない。大事に、仕えて行きたいって、そう思ってます」  緋央の言葉に、祐介は大きく頷く。  緋央がどれだけ銀を想っているのか、鷹匠というものに誇りを持っているのか、改めて感じ取った。 「緋央ちゃんは、鴨以外にも狩りをするの? 山の鳥とか、小動物とか」 「カモ専門にしています」 「鴨が好きだから?」 「勢子(せこ)役のゴンがいなくなったからです」  祐介は一瞬、箸を止めた。 「キジやヤマドリは藪の中に潜んでいることが多く、それをうまく追い出す役割を勢子(せこ)といいます。ゴンはとても腕のいいパートナーだったんですが、おじいちゃんとの、最後の狩りの途中で行方不明になって……」 「ごめん、余計な事訊いて」 「気にしないで下さい」  ゴンはイングリッシュポインターと言う種類の、中型犬だったという。  まだ5歳の、とても利口な犬で、緋央もゴンが子犬の時から訓練を手伝ったらしい。  手を尽くして探したが、何の情報もなく、半ばあきらめているのだと、静かに語ってくれた。 「もしゴンが帰って来ても、いまのスタイルを続けるつもりです。山では他の猟師と遭遇してしまうリスクもあるし、私は見通しの良い河川敷だけを狩場にしています」 「この辺の河川は、猟銃禁止だから緋央にライバルはいないもんね」栄が鍋にうどんを追加しながら言う。 「そう言えば、……幸三さんも猟友会仲間だったのよ。猟期になったら毎年大物のシシを撃って記録作ってたらしいわ」 「それで思い出した。浅野さんの話、栄さんに聞こうと思ってたんだ」  祐介が身を乗り出す。 「同級生で、猟仲間ってことなら、かなり正信さんと親しかったんですよね」 「そうだったみたいよ。私自身は殆ど面識はないんだけど」 「養豚場って、けっこう大規模なんですか? 浅野牧場と言えば、この辺では知らない人はいないくらいに」 「そうね。でも、有名になったのは、もしかしたら鳥インフルの騒動のせいだったのかも」 「とりインフル?」 「そう。幸三さんが養豚(ようとん)の前に大々的にやってたのは養鶏(ようけい)なのよ。浅野のブランド(どり)って言ったら、スーパーでもいいお値段だったのに、鳥インフルで、いっぺんに殺処分なってしまって」 「え、ぜんぶですか?」 「五万羽ぜんぶよ。けっこうニュースにも出たんだけど、見なかった? ちょうど二年前」  二年前。  世の中の出来事など、祐介にはまったく興味の無かった時期だ。
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