フライトコール

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「一羽でも発症したら、鶏舎のニワトリはすべて処分しなきゃならないからね。結局その後、養鶏場の経営はスパッとやめたみたい。同じ場所で養鶏始めても、イメージとか風評被害って少なからずあるらしいし。でもさすが実業家。養豚業どんどん拡大して、あっという間に経営立て直しちゃったもん。広報誌にも載ってたわ」 「そうなんだ……。鳥インフルって、怖いんですね……。でも、銀が無事で、良かったです」 「そう、それ緋央とも話したの。鷹だって例外じゃなく罹るから」  安全宣言が出るまでの数か月間、銀はまさしく籠の鳥で、フライト訓練もできず、少し太らせてしまったと、緋央は恥ずかしそうに笑う。  けれど栄はそれを補足するように、次の猟期には、まるで元々自分の鷹であったかのように銀と呼吸を合わせ、多くのカモを獲ってくれたのだと、緋央を見ながら自慢気に言った。  正信もゴンもいなくなった白崎家だったが、銀と緋央が、かつての日常を引き継いでくれたことは、きっと栄にとって大きな心の支えになったのだろうと、祐介は感じた。  たぶん、緋央もそれを感じているはずだった。時には無理をして、栄の好きなコガモを獲ってこようとする。  傍にいるだけで、温かさと絆の強さが伝わって来る。  だからこそよけい栄は、これからは緋央がちゃんと独立して生きて行けるように、喧嘩腰になってまで進学をすすめるのだろう。祐介は思った。 「もっと食べてね。お肉もまだあるし。それともうどんを追加する?」  祐介が喜ぶと、栄はすぐに台所から麺の入ったザルを抱えてもどって来た。 「それにしても、あの幸三さんが祐介君の探してる零士君の伯父さんだったなんて、世間は狭いわよね。幸三さんを当たれば、ブタ小屋の事も零士君の事も調べられるし、一石二鳥じゃない」  栄のポジティブな一言で、話は一気に本題に入った。
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