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「甥っ子の友人っていうのは、強みですもんね。ただ、零士の友達ってだけで、社長が会ってくれるかが心配で」
「零士君から伝聞を頼まれてるから、会いたいんです、ってのはどう?」
「ああ、そっか……。内容は何でもいいですよね、いつか飲みに行きたいって言っていました、とか。会える約束を取り付けられればこっちのもんなんだし」
「そうそう。で、この町で会う約束したのに連絡がつかないんで、もし知ってたら教えて欲しいって頼んでもいいし」
「いいですね。知らないって言われても、その帰りに、施設見学をさせてもらえれば、もう一個の調査ができて、無駄にはならないし」
「でも、その流れじゃ、施設の隅々まで見て回るのは不自然かなあ」
と栄。
それももっともだ。
箸を握ったまま思案していると、「こんなのがあったけど……」と、緋央が祐介の前に、一枚のチラシを差し出した。
コンロの下に敷くために、さっき何枚か新聞から引っ張り出しておいた中の一枚だ。見れば全面、『浅野牧場』のスタッフ募集の広告だった。祐介は受け取って、まじまじと見入った。
「これ、いいかも。随時バイトの面接を受け付けるって書いてあるから、興味があるので見学させてくださいって頼んでみよう」
「でも、受かっちゃったら、その養豚場でバイトするの?」
「受かるはずないですよ」
「あらどうして」
「俺、まともな職歴もないし、軽そうだし、受かる要素ゼロですから」
「自己評価低過ぎよ」
栄は声に出して笑った。
祐介も、照れくさそうに笑ってみた。実際そうだから仕方がない。
「とりあえずの連絡先はここにしておいてもいいわよ。携帯持ってないし、不便でしょうから」
「本当に……何から何まで、すみません。ありがとうございます」
祐介は心底感謝して、頭を下げる。
「豚小屋探しの事は、私が頼み込んだ事だから、頭を下げないでください。本当なら、祐介さんじゃなくて、私が行くべきだと思うのに――」
「とんでもない。何度も言ったろ? これは二人の案件だって。豚小屋調査は俺の方が適任だし、とりあえず任せといて。しっかり見て来るから」
緋央の気遣いが、祐介の気持ちを楽にしてくれた。
多くは語らないが、緋央の優しさに祐介は何度も助けられ、そしてその真っ直ぐな心根に惹かれていく。
ずっと甘えているわけにはいかないが、もう少しだけ傍にいたいと思った。
いつかきっとこの二人には恩返しがしたい。
それが何なのか、いつになるかは分からないが、今はそれを目標にしていたいと、かなり本気で祐介は思った。
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