フライトコール

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 【三】  翌朝九時、祐介は、浅野牧場の事務所に電話を掛け、まずは浅野幸三社長が出社しているかどうかを聞いた。  出社しているならば、その場で代わってもらうつもりだったが、あいにく浅野社長は不在だった。他にも事業所を抱えているので、こちらへの出社時間は決まってないと受付の女性は言う。  祐介はとりあえず、自分は社長の甥の岡田零士の友人で、少しお話があるので、もしそちらに出社されたら、電話を貰えないかと伝えた。事務員は快く祐介の言う番号を控えてくれたので、ひとまず安心して電話を切った。  次の電話の前に一呼吸置いて、気持ちを切り替える。嘘をつくという概念を捨て、あくまでバイト探しの青年になり切るのだ。  もう一度同じ番号に掛けると、今度は別の男性事務員が対応してくれた。面接を申し込むと、すぐに来てもらって大丈夫だと言うので、祐介は一時間後の約束を取り付けた。  不備だらけではあるが、形だけの履歴書を書き、デイパックに放り込む。  養豚場までは、栄が軽トラで送ってくれた。  祐介は、歩いて行きます、と言ったが、肥料を買いに行くついでだから遠慮しないで、と言ってくれた。 「緋央ったらね、ついて行きたくて仕方なさそうにしていたのよ。外で待ってちゃだめかな、って」  祐介が軽トラの助手席に乗り込むと栄は、思い出したように笑った。 「ああ……、俺一人じゃ、頼りないんでしょうね」 「単純に、近くに居たいだけなんじゃないかしら。ああ見えて、妙に幼いところあるのよ」  緋央がこんなに他の人に懐くなんてね、と、栄は楽しそうに話した。  その口ぶりから、緋央が普段、他人を受け入れない、かなりの人見知りだと言う事が伝わって来た。 「でも、聞き込みの時は、積極的に声をかけてくれましたよ? おじさんとか、子供とかにも」 「祐介君が傍にいて、安心してたからよ。一人じゃ無理だもの」 「だとしたら嬉しいけど、でももっと強い、使命感のようなものを感じるんですよね、緋央ちゃんの中に」 「使命感か……。ねえ、祐介君は、SOSの女の子探し、どう思ってるの?」  栄が聞いて来た。  少し痛い質問だ。
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