フライトコール

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「あの、仮の宿に泊まっていまして……ここでバイトできるなら、どこか、ちゃんと住まいを探そうかと……」 「なら、あきらめた方がいい。ここは君のような住所不定の人間を雇う事はできない」 「はい……分かりました。バイトの事は、あきらめます」 「やけにあっさりだな。まるで本題は別だと言ってるみたいに聞こえる」 「え」  頭が真っ白になった。  そのあと、ジワジワ湧いて来た違和感。  ――幸三は、いったい何を疑っているのだろう。 「あの、……俺は本当に、零士の行方が知りたいだけなんです。もし、社長さんがご存知ないのなら、それで諦めますし……バイトの件とは、全く関係なくて」 「本当に零士とは、連絡を取っていないのか? ここ最近」  ますます、質問の意味が不可解だった。 「本当です。携帯も数か月前から通じなくなってるし」 「なぜそこまでして、零士を探す必要があるんだ?」  嫌な汗が滲んで来た。ぎょろりと大きな目に見据えられ、まるで何かの尋問をされているような、妙な気分になって来る。 「それ、言わなければいけませんか」  少しだけ抵抗してみた。どうも、自分が何かを疑われている気がして腹立たしくなってきた。 「できれば教えてもらいたいね。零士は昔から素行が悪くて、何かとよからぬ噂を立てて来てくれた子だからね。どこかで悪さをして、追われてでもいるんじゃないかと、案じてるんだよ」  幸三は口元をゆがめ、奇妙な笑顔で言う。  本心かどうかは読めなかった。
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