フライトコール

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「それなら、心配いりません。零士はちょっと軽いところがあるけど、そこまで悪い奴じゃありませんから。俺が……半年ほど前に、ちょっとお金を、貸してまして。でも、実家にも帰ってないし、地元の親しい友人も見つからなくて。社長さんなら、別の連絡先かなんか、ご存知かな……と、思ったんです」  脇に汗をかきつつ、たどたどしい口調で祐介が言うと、浅野幸三はじっと穴が開くほど祐介の顔をみたあと、喉の奥でくぐもった笑い声を出した。 「なんだ、そんな事か」  グイッと前に身を乗り出し、机に丸太のような腕を置く。 「叔父である私にその金を返してほしいと、そう言いたいんだな」  幸三は、なぜか先ほどまでの噛み付くような表情を緩め、冷笑を浮かべた。  けれどそれは祐介にとって屈辱でしかなく、体中の血が一気に沸き立った。 「ち、違います。そんなんじゃありません! 本当に、ただ零士の連絡先を聞きたかっただけで――」 「もういい、よく分かった。まったく、くだらん」 「だから、違うんですってば!」 「気を揉んで損をした」  祐介は返す言葉を探したが、怒りが先に立ってうまく出てこない。 「零士に貸した金なら、零士に返してもらえ。日本中探し回ればいい。もし見つかったら、零士に伝えてくれ。二度と俺の甥だなど、他人に言いふらすな、非常に迷惑だ! ってな」  幸三はゆっくり立ち上がり、さっさと出て行けとばかりにドアの方を指さす。  祐介は唇をかみしめ、正面から幸三を見たが、何も言わずに踵を返した。
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