フライトコール

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 *  どちらの姿も見失ってしまったため、雑木林に入ってまず、祐介は緋央を探した。  木立が少し開けた場所に佇む緋央をようやく見つけて走り寄ると、緋央は祐介に、「静かに」と、ジェスチャーを送って来た。銀の声や鈴の音を探しているのだろう。  その場で静止し、祐介も同じように、周囲に耳を澄ます。 「聞こえない……。このあたりからキジバトが二羽飛び立ったのが見えたから、近くにいるって思ったんですけど」  沈んだ声で言い、緋央は木立の奥に進んで行く。奥へ行くほど常緑樹が生い茂り、薄暗い。 「この林の外に飛んで行ったのかな」  祐介が言うと、緋央は首を横に振る。 「ここまでかなりの距離を飛んだので、体力を消耗していると思います。怯えていたし、この周辺の木蔭に身を潜めてるはずなんですけど……。こんな事は、今まで無かったから、私も判断できなくて」 「え、初めてなの?」 「私が銀を引き継いでから丸二年、ロストは経験しませんでした。銀は臆病で神経質だけど、私の制止を無視することは、今までなかったんです」  緋央は喋りつつも、慎重に周囲に気を配りながら、木々の間を進んで行く。 「あんな大声で怒鳴られたら銀じゃなくたってびっくりして逃げ出すよ。あ~、もう、怒りがぶり返して来た。なんなんだよあの人。あんな言い方無いだろうがよ!」 「勝手に銀を連れて敷地内に入った私が悪いんです。でも……」  緋央は少し声を低くして続けた。 「銀が、人に対してあんなに威嚇の声を上げるのを見たのは、初めてでした。銀が威嚇し始めたのは、怒鳴り声を上げられる前だったから、何が起こったのか、すぐに分かりませんでした」 「あんな目尻釣り上げた顔見たら、そりゃあ銀だってビビるよ。おれだって身が(すく)んだもん」 「表情を読みとれるほど、鷹は賢くありません。けれど人間の識別はできます。銀は、他の鷹よりも記憶力が良いから」 「ああ、言ってたね」 「一度覚えた人の事は、時間が経っても忘れません。印象が強ければ強いほど。だから……もしかしたら銀は、あの幸三という人を、記憶していたんじゃないかと思うんです」 「記憶してた……。 じゃあ、どこかで会ってて、その上であんなに警戒したってこと?」  緋央は頷く。
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