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「そう。養鶏場の敷地でね。こっちの豚舎で育てると、ほら、よく分からない病気持ってたら困るでしょ、野生のイノシシと交配させたりするから。だから養鶏場の敷地の隅っこで育ててたんだけど」
「その倉庫って、まだありますか?」
「さあね、鶏舎は潰したけど倉庫はあるんじゃない? でもなんで?」
「あ、いえ。イノブタ、ちょっと興味があって」
「もう育ててないよ?」
「ああ、そっか、そうですよね。ちょっと、見たかったな……って」
「見た目は豚と変わんないよ。味は良かったんだけどなあ。最初の一頭試食させてもらったけど、あれはうまかったなあ……」
思い出すように斎藤は頬を緩める。祐介はソワソワする気持ちを抑えるのに苦労しながら、僕も食べたかったですと相槌を打った。
その後、先ほどの豚舎案内の礼と、そして社長との話の流れで、どうやら自分はバイトの条件を満たしていないことが分かったので、あきらめる旨を斎藤に伝えた。
斎藤は残念がるとともに、祐介に励ましの言葉を残し、またトラックに乗って、西の方に走り去って行った。
祐介は、遠ざかる車に深く頭を下げる。
とても気の良い斎藤がくれた情報は、思いがけず大きなものだった。
まだ幸三から受けた苛立ちは残っていたが、少しだけ、進む方向が見えて来たことが、気力になった。
「銀!」
突如、靄を吹き飛ばすような、澄んだ声が響いた。
ハッとしてその方向を見ると、二十メートルほど離れた木の下に立つ緋央の左手に、今まさに一羽の鷹が舞い降りて行くところだった。銀を見つけたのだ。
「よかった~~」
安堵の声を漏らし、祐介は緋央の元に走り寄る。
「お騒がせしました」
緋央はケースから取り出した餌を銀に与えたあと、いつもの落ち着いた表情で祐介に言った。
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